第四回 第一の選択

ためすひと

更新

前回のあらすじ

夢の中に登場する3つの分岐点で、3つとも選択を間違えなければ、あなたの人生はがらりと変わる―。つまらない人生を変えるために「起業セミナー」に参加した雄三が出会った美青年・久根は「選択の小箱」を差し出した。

 ガシャン、という大きな音がして、雄三は目を覚ました。
「やめてえ、お父さん、堪忍してえ」
 今度は、ドン、と鈍い音がする。
 ああ、そうだ。目を覚ましたのではない。
 母の公子きみこが壁に叩きつけられてうずくまっている。
「もう一度言ってみろ。なあ、俺の何が間違ってる?」
 母の前に、父の義之よしゆきが仁王立ちしている。
「間違ってるなんて言うてません。ただ、バレーは、雄三が一生懸命続けてきたことやから…そういうことで、評価してもらえるなんて、有難い話やから…」
「女は目先のことしか考えられない。玉遊びなんかで食えるのか? 食えないだろう。なあ、お前、何か言えよ」
 父親が首をぐるりと回して雄三を見た。
「お前のせいでこうなってるんだろうが。母さんにも申し訳ないと思わないのか?」
 体が硬直する。舌が石のようになって動かない。
 思い出した。これは十五歳の雄三だ。バレーボールの選手として評価され、強豪校からスカウトが来た。でも、父親はスポーツなどくだらない、真っ当に勉強して真っ当な社会人になることこそ正しいのだと言って反対した。雄三の気持ちも大事にしてほしいと訴えた母親に苛立ち、手ひどく痛めつけた。まさに、あのときだ。
 雄三は今、十五歳の体で、ここにいる。
 つまり久根の言ったことは、本当だった。
「おい、ゴミ」
 父親は雄三の額をつま先で小突く。母親は倒れたまま、涙を流している。
 いつもこうだった。
 この家では、父親と、一番上の兄の雄一ゆういち以外には人権がない。行動も、発言さえも、全て制限され、少しでも逆らうと暴力が待っている。
『ゴミ』と言われて育った。
 雄三が、一般的な成人男性より頭一つ大きい体格を持っているのに、自己主張が苦手で引っ込み思案な性格なのは義之のせいだ。幼い頃から自分の意見を全て圧殺されて生きてきたから、どうせ何をしても何も変わらないだろう、と刻み込まれている。ゴミであると言われても、それが正しいと受け入れるまで、父親への服従が叩きこまれている。
『全部で三回、選択を間違えなければ、あなたの人生はがらりと変わる。確実に良い方向に』
 久根の言葉を思い出す。
 父親は何度も何度も足で雄三の額を小突いている。後ろでは母親が泣きながらやめてえ、と繰り返している。雄一と雄二ゆうじは黙って食べ物を咀嚼そしゃくしている。
 間違っている。
 このような環境は間違っている。
 雄三はゴミではない。
 暴力を振るい、恐怖で家中を支配しているこの男はなんなのか。
 家族がこんな目に遭っているのに、黙って食事を続けている者はなんなのか。
 雄三はゴミではない。
 ゴミは、彼らの方だ。
 雄三は立ち上がった。