第五回 運命の出会い

ためすひと

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前回のあらすじ

人生の選択をやり直すために「選択の小箱」を使った雄三は、15歳の頃に戻って、支配的な父親から逃れる人生を選択することができた。自分の望む未来に一歩近づいた雄三は、大学で目が覚めるような美女と出会う。

 すらりとした長い脚、艶やかな長い黒髪。肌はぴかぴかと光っていて、薄化粧が映えている。
「どうしよう」
 そう繰り返す度に、彼女の小鹿のように大きな目が不安げに動いた。小刻みに震える唇も瑞々みずみずしい果物のようだった。
 四方しほう舞子まいこ
 遠くからでも図抜けた美人だということは分かっていたが、近くで見ると、同じ人類だとは思えないくらいだ。
 去年の東京医科専門大学のミスコン女王。しかし、ミスコン女王などという安っぽい称号は彼女に似合わないと思う。彼女は、雄三が見たことのある誰よりも美しい。
 服装も流行りの服を着ているわけではなく、どちらかというと地味だ。そこが、彼女の育ちの良さを引き立てている。四方舞子は都内にある四方病院の院長令嬢で、正真正銘のお嬢様だった。
 学業も優秀で、医学部二年生の中でもトップクラスの成績だと聞いたことがある。
 本来なら、学部から何から全てが違う雄三が関わることのない女だ。
「どうしよう…」
 しかし、雄三は直感的に分かってしまった。
 これは恐らく、二回目だ。
 さきほどから彼女は廊下を端から端までどうしよう、と言いながら歩き回っている。
 今手元にあるダイアモンドのイヤリング。照らし合わせて考えると、答えが出る。
 これは彼女の探しているものだ。
 彼女に声をかける。
 それが二回目の、正しい選択だ。
「あの、こ、これ」
 突然目の前に飛び出してきた雄三に、舞子は一瞬眉をひそめた。
 しかし、すぐに笑顔になる。まるで花が開いたようだ、と雄三は思った。
「拾ってくれたの? ありがとう…本当にありがとうございます。とても大事なものだったの。祖母の形見で」

       *

 何かが焦げる匂いがして火を止める。
 ソースの匂いだ。それと野菜、肉。焼きそばを作っている。
 三回目なのでもう分かる。雄三はまた、正しい方を選んだのだ。
 雄三はイヤリングの一件で、舞子と親しくなった。ただの友人から恋人になるまで、ほとんど時間はかからなかった。
 なんと、舞子も雄三に好意を持っていたのだ、と後に聞いた時は嬉しかった。
 雄三は美男子というほどではなかったが、目尻の下がった優し気な面立ちをしているうえ、日本人離れした体格を持っていたため、女性には好かれる方だった。それに気付いたのは、やはり正しい選択をしてからなのだが。とにかく、現在の雄三にはおどおどとしたところは微塵もない。だから、何もかも格上の美女である舞子と一緒にいても、変に卑屈になったりするようなことはなかった。
 結婚しましょう、と舞子から切り出されたとき、雄三はこの背格好に産んでくれた両親に感謝した。見た目が彼女の好みでなかったら、まさか舞子のような女が雄三などと結婚を考えるとは思えなかったからだ。
「逆・玉の輿」となった雄三だったが、楽しいことばかりではなかった。
 まず、四方家の両親の大反対に遭った。
 四方家は遡れば藩医にたどり着く、代々医師の家系で、一人娘の舞子は大事な跡取りだった。当然夫も医師でなければならなかったし、既に何人か候補もいたようだった。
 そこに医師でもなく、体格以外大したとりえもない雄三のような男が現れても、受け入れられないことは容易に想像ができた。
 家柄、学力、容姿、経済力、交友関係、趣味、とにかくあらゆるものを、上流階級らしいオブラートに包んだ表現で批判される。
 雄三の両親——というか、母親にも問題があった。母親の公子は、とにかく舞子のことが気に入らないようだった。