第三話 瑠璃色のプレゼント【4】
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前回のあらすじ
執拗に追ってきた「男」が死んだ!? 怯える未緒を乙羽が支えてくれたけれど、次なる試練が待ち受けていた──。

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――そして今、乙羽とわたしは瑠璃の挙式を見つめている。
瑠璃は青い顔をしていた。それにしても瑠璃はどうしたんだろう。鶴来はどこかの貿易会社の社長だそうだから、その流れで、社長令息の英司さんを紹介してもらったとか。
いやいや、婚活アプリだかお見合いパーティだかが、きっかけだって言っていた。
なにより、鶴来は死んだ。
わたしの電話を受けた女性が誰かは知らないけれど、他界したと、たしかに聞いた。
じゃああれは誰、と同じ疑問に立ち戻る。瑠璃に訊くしかない、乙羽の言うとおりだ。
挙式のあと、教会から庭へと誘導された。このあと、改めて瑠璃たちを迎えるフラワー&ライスシャワーが行われる。教会挙式の、華やかなイベントだ。式場のスタッフが花びらとお米の入った籠を配りまわっている。
庭に集まる参列者から、鶴来の顔を盗み見た。不快になるだけなのに、ついたしかめたくなってしまう。乙羽も視線を向けている。
鶴来のほかにも、見覚えのある顔がいた。
髪を結いあげているから自信はないけれど、あれは鶴来が送ってきた写真の女性、彼の娘だ。新郎側の親族席、鶴来の隣ではないものの、ほど近い位置に座っていた。
あの絵は納品せずに終わった。その前に鶴来が死んだから。……いや、わたしが殺した。
この一年弱、忘れていた。自分のなかでなかったことになっていた。だけど、と思うと立っていられなくなった。
「だいじょうぶ? 未緒」
しゃがみこんでしまったわたしに、乙羽が手を差し伸べてくる。
「その服でしゃがむとお尻の形がわかるから、やめたほうがいいよ。あと、汚れる」
わたしはマーメイドタイプのドレスを着ていた。乙羽はチャイナカラーのドレスにシフォンのふんわりしたスカーフを羽のようにまとっている。天使の羽、と本人は称していた。
「……その話の外し方、乙羽らしい」
「でしょ。今考えても仕方のないことは考えない。あの男の正体は、瑠璃に訊かないとわからない、それだけだよ」
わたしは立ちあがった。乙羽の言うとおりだ。今日は瑠璃の晴れ舞台なんだから、しっかりしないと。
瑠璃たちの登場が告げられた。フラワー&ライスシャワーに歓喜の声が湧く。ブーケトスにも参加する。ブーケは鶴来の娘に渡ったが、もらえなくて残念という気持ちにはならない。そんなことより鶴来のことが気になっていた。乙羽とともに瑠璃の元に向かう。
あの男は誰なんだ、と乙羽が詰め寄る。鶴来は死んだ。画廊からそう聞いたと、嘘までついている。
瑠璃にも誰なのかわからない、という宙ぶらりんのまま、わたしたちは美しい庭に取り残された。待つしかない。
未緒ちゃん、と背後から声がした。
振り向くと、留袖姿の女性が立っていた。瑠璃のお母さんだ。
「この度はおめでとうございます」
不安を気取られないよう、わたしは頭を深く下げた。
「こちらこそ、列席してくれてありがとう。未緒ちゃんは、高校時代からずっと瑠璃のお友達だったわよね」
「いえ高校では、わたしが一年後輩です」
「あら、そうだったかしら」
美大にいたころ、帰省したときは互いの家を行き来していた。瑠璃のお母さんをモデルに絵を描き、プレゼントしたこともある。
乙羽はお母さんと会ったことはあったっけ、と紹介しようとしたけれど、乙羽は瑠璃の妹の波瑠ちゃんに声をかけられていた。サインがどうこう、と聞こえたので、もしかしたら乙羽の絵のファンかもしれない。
「ウェルカムボードもありがとうね。忙しいなかで描いてくれて、嬉しいわ」
ウェルカムボード?