種田晃太郎の休日【後編】
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前回のあらすじ
ワーカホリック男の種田晃太郎は何者かに呼び出され、隠れ家風ダイニングバーへ向かう。そこに待ち構えていたのは「ネットヒーローズ」の同僚と自分の弟。彼らは「結衣のどこが好きなんだ?」と問いかけてきた!

晃太郎はまた黙ります。しびれを切らしたのか、柊がまた口を開きます。
「コーニー、黙ってないで答えなよ。結衣さんのことどう思ったの?」
「そうだ、答えろ。俺たち大人男子をキュンキュンさせてくれ」石黒も煽っています。
「東山さんの方は帰りの飛行機で一睡もできなかったそうです。翌日には会いに行き、またビールに誘ったと。種田さんが東山さんを好きになったのもその時ですか?」
晃太郎は黙りました。先代のApple Watchから彼の過去データを引き継いでいるSiriによれば、クレーマー体質のクライアント先でプレゼンをする時でも、ここまで心拍が上がったことはないそうです。追い詰められた顔で、再び口を開きます。
「いや……そんな一晩で……人を好きになったりしないだろ……。恋愛ドラマじゃないんだからさ。来栖にはそういう経験があるの?」
「恋愛経験を上司に訊かれるのは不快です」
「それ言ったら! 俺だって部下に自分の恋愛の話なんかしたくないよ!」
「僕だって仕方なく聞いてるんです」
「じゃあ俺も仕方なく言うけど! あの頃は案件が燃えてて睡眠不足が続いてて、博多から帰ったら倒れるように寝て、次の日もアホな上司がやらかしたトラブルの処理やって、夕飯買いに会社の外に出たら、そこに結衣がいて……って、俺にとってはそういう話なんだよ。そりゃ、昨日の今日で会いに来たわけだから、もしかしてとは思いはしたけど」
「もしかしてとは」
「俺に気があるのかなって思ったんでしょ。兄の学生時代はモテてばっかだったので」
「死ねばいいのにな、そういう男は」石黒が真剣な顔で言いました。
「野球やってた頃の話ですよ!」晃太郎も躍起になって言い返しています。「社会に出たら甲子園スペックに食いつくのなんてオッサンだけだし、零細企業に勤めてるせいで合コンでもモテないし、就職してからは彼女だってずっといなかったし。でも」
そこまで言うと、グラスを一気に空けて、晃太郎はヤケになったように続けます。
「結衣はわかりやすく、グイグイくる奴だったから、そりゃ思いはしたよ! 気があるのかなって。だから飯食いにも行ったし、週三ペースで誘ってくるから土日も会うようになって、これもうつきあってんじゃねえの? って気になり始めた頃、終電なくなったって言われて、むこうもはっきりさせたいんだなって思ったから、うちに一泊していただいたのを機につきあうことになった。つきあって二年くらいして、結衣が孤独だとかなんだとかって言い出したから、じゃあ結婚するかって話に……柊、何だよ、その顔は!」
「コーニーにキュンを求めたのが間違いだったって思ってる顔だよ」
「種田さんだから」来栖がAndroidを持ちました。「やっぱ面白さゼロだったね。でもヒアリングはこれで十分です。じゃ、僕は次があるし、ここで終わりってことで――」
そう言って来栖が録音を切ろうとした時でした。石黒が制止しました。
「いや、終わりにはできない」
なぜか怖い顔になっていて、菱形の目を晃太郎に据えています。
「さっきから聞いてりゃてめえ、結衣に誘われたから、結衣に言われたから、って完全に受け身じゃねえか。何だそりゃ。そんな奴に俺の大事な部下をやれるか」
「は……」晃太郎は何を言うんだという顔をしています。「いや、一ヶ月も前に婚姻届出してますし、石黒さんに許可もらう必要ないですし、意味わからない……。なんかハイになってません? あと一点訂正しますと、結衣は今月末までは俺の部下です」
「ふっ、ユイユイの上司になってどれくらい? 通算したって一年足らずじゃねえか。その程度で我が物顔されてもなー。俺はあいつを新卒の時から六年も育てたんだ」
あからさまにマウンティングされて、晃太郎の方も火がついたようです。
「それ言うなら! 石黒さんこそ、来栖のこと泰斗泰斗って我が物顔で呼ぶのやめてもらえませんか?」


