月よ照らせ通天閣の青蜥蜴 ①
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駅の改札を通り抜けたタイミングで、スマホが音をたてた。ラインの着信音だ。
住まいのマンションまでは徒歩五分だから、帰ってからゆっくり見ようと思うのに、次から次へと着信音が鳴る。カントリー ・ ミュージック風の着メロは、中学三年のときの同級生グループラインに設定したものだ。三ヵ月ほど前、卒業後十五年で初のクラス会が開かれたとき、幹事が連絡用に作ってくれたグループだった。
今のこの着信ラッシュは、最初の一人の発信に、グループラインのメンバーがレスしているのだろうけれど、それにしても矢継ぎ早だ。入口のオートロックを抜け、自宅のドアを開けるころには、わたしは胸騒ぎを覚えていた。こんなやりとりは、うんと良いことか、うんと悪いこと、どちらかのニュースでしかないだろう。
狭い三和土で、ショルダーバッグを足元に置くと、通勤用のスニーカーを履いたままその場にしゃがみ込み、スマホを引っ張り出した。そのあいだにも、またラインの着信音。
スマホの画面には、壁紙にしている時計の表示が隠れてしまうほどに、ラインの着信表示が並んでいた。午後八時五十三分。空っぽの胃袋がぐうっと鳴る。
〈テレビ点けた! 大阪はローカルニュースでやってる!〉
これがいちばん新しい着信だ。個々のラインは、着信を報せる画面には一行表示されるだけなので、何が何だかわからない。ニュース? ベテランなのにおとなしすぎる先輩が、ワガママ放題の患者(さま)に攻撃されていたから、バカみたいに助太刀に入って騒ぎを大きくして、挙げ句に一時間以上も帰りが遅くなってしまったわたしが何も知らないうちに、空に巨大な円盤が出現したとか? そしてクラス会のみんなは、金曜日の夜だというのに、そのニュースにこれほど矢継ぎ早に反応し合えるほど暇なわけ?
スマホを手に、スニーカーを蹴って脱いで、わたしはリビングへ向かった。仕切りのドアの磨りガラスの部分に、コテツの茶色いシルエットが浮かんでいる。いつものようにわたしの帰宅に気がついていて、ニャアと鳴いた。
「ただいま。遅くなってごめんね」
片手でコテツを抱っこして、頭に頬ずり。わが家に迎えて二年ばかりの茶トラ猫の匂いを吸い込んでいると、また次々とラインが着信し始めた。わたしはいったんスマホをキッチンのカウンターに置き、リモコンでテレビを点けた。
ニュース番組が映った。画面の左上に「LIVE」の表示。右上にはいくつか文字が出ており、左下には四角い窓があってタレントの顔が覗いている。これはつまり、バラエティだか歌番組だか、報道ニュースではない番組をオンエア中に何かが起きたので、急ぎ現場から生中継しているということだろう。
テレビ画面の真ん中に映っているのは、ライトアップされた通天閣だった。


