月よ照らせ通天閣の青蜥蜴 ④

続 ぼんぼん彩句

更新

前回のあらすじ

3年A組の生徒・織口折夫の父と不幸な衝突以来、先原先生の怒りのバランスを司る部位が、決定的に壊れてしまった。先生の怒りは織口父子の貧しい環境ではなく、父子そのものに向けられ、個人面談で織口を見下し暴言を吐いてしまう。そして織口は先生が指示した通り、校舎の外壁を下から屋上まで昇った。この事件のあと、先生は二度と教室に戻ってこなかった。織口もまた、そうであった。

イラスト 出口えり
イラスト 出口えり

 テレビ画面はまた通天閣からの中継に戻った。あの青いトカゲはやはり西洋凧だったこと、近くのパチンコ店の新装開店祝いに使われる予定だったものが、テスト中に糸が切れて飛んでいってしまったと判明したこと。スタジオのアナウンサーがにこやかにニュースを読み上げている。
〈関係者は大変だろうけど、俺たちにとっては思いがけないハプニングで、クラス会のカーテンコールになったね〉
 幹事のラインだ。当時もまめな男子で、いろいろな委員を兼任で務めてくれていた。
〈こんな形でまた思い出話をするなんて、ねえ〉
〈ここに登録されている全員から、メッセージが来た?〉
〈いや、さすがに全員じゃない。この時間帯、仕事でテレビもスマホも見られない奴もいるでしょ〉
〈織口君は、どこかで通天閣の映像を見てるかなあ〉
 見ているかもしれないし、気づいていないかもしれない。見ても、自分自身の過去と結びつけて思い出してはいないかもしれない。それを知る術はない。彼の連絡先はわからないままだからだ。
 幹事はこのクラス会を開催するために、同様の目的で同窓生や同級生の連絡先を集めたい人たち向けのウエブサービスを利用した。わたしたち元A組のメンバーには、そのサイトから連絡が来たのだ。そして、クラス会に参加したい、幹事と連絡を取りたいと望む者だけがレスを返したという段取りだった。だから、そう望まなかったクラスメイトたちは連絡先がわからない。二十七名のうち、八名いる。織口君もその一人だった。
 わたし自身は、連絡を返してグループラインに登録したけれど、最初からクラス会に出席するつもりはなかった。
〈元気に暮らしています。救急病院の看護師になりました。先の予定がなかなか立てにくいので、残念ですが、登録だけにしておきます。クラス会が盛会になりますように〉
 幹事にはそういうメッセージを返して、あとはグループラインを眺めるだけにしておいた。幸い、当日の記念の集合写真をもらうことはできた。幹事の計らいだ。
 わたしが看護師であること、勤め先が救急病院であることは本当だ。でも、クラス会に参加できるかどうかわからないほど仕事に追われてはいない。
 単に、わたしは出席したくなかったのだ。したら、みんなに隠し事をするか、みんなの好奇と猜疑と(もしかしたら)嫌悪の対象になるか、どちらかだろうと思ったから。
 テレビのなかの通天閣に、作業員の誰かが登ってゆく。青いトカゲを取り除く作業が始まるらしい。
  そのとき、わたしのスマホにこれまでとは違う着信音が鳴った。電話だ。画面に、発信者の登録名が表示されている。
 〈夫〉と。