家中の鏡磨いて百物語 ③
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前回のあらすじ
生まれ育ったこの町で、変異体による〈大襲撃〉に遭い、偶然に寄り集まったチームで「須原屋敷」に逃げ込んでやっと4ヶ月半。リーダー的行動力と判断力のある浅見さんと、建物の営繕や電気工事に明るい浦河さんのおかげで、生き延びてきた。このチームで自分のできることをして、みんなで生き延びて、いつか必ず来るはずの、この事態の終わりを見る。それが今のわたしの目標だ。だけど、18歳のアイラはとことん信頼できない。彼女のせいでチームの誰かが危険にさらされるようなことがあったら、絶対に許せない。

須原屋敷は広大だけれど、広すぎるスペースを全部使うと、守りが甘くなる。幸い、二階にも水回り設備があるので、一階は捨て、ところどころにバリケードを築いて、わたしたちは二階フロアだけで暮らしている。備蓄品も全て二階に運び上げてある。物置にあった工具とコードを使い、浦河さんが二階フロアの要所に照明器具を移し、コードで発電機とつないで、いざというときはいつでも灯りを点けられるようにしてくれた。変異体は太陽の光と同様、人工の光にも弱いからだ。
ただインフラが壊滅し、多くの人が犠牲になったり逃げ出したりして、夜は墨を流したように真っ暗になるこの住宅地のなかで、夜間に光を灯すということは、そこに生きた人間がいると示してしまうことでもある。知能の高い変異体は、それを理解して襲ってくるから始末が悪い。発電機の燃料にも限りがあるから、常に動かしておくわけにはいかないし、わたしたちは基本、昼は陽光の下で活動し、日暮れから次の夜明けまでは息を殺して闇のなかに隠れるようにしている。
洗面所やトイレ、部屋に備え付けの姿見などを外して集めれば、須原屋敷には充分な数の鏡が存在した。それを使おうと言い出したのは伊原さんだった。
「カーブミラーみたいに配置して、外の死角になりやすい場所を監視することもできますし、鏡は光を反射するから、一つの光源を複数の場所で活用できるんじゃないですかね」
名案だ! と浅見さんと浦河さんが賛同し、三人であれこれ議論して照明器具と鏡の配置図を作り、それに従ってみんなでセッティングしたのは、ここに逃げ込んで一ヵ月もしないうちのことだった。意外な発見もあった。使えるものがないか隅々まで調べてみたら、一階の奥の物置に舞台用のスポットライトがいくつか保管されており、ちゃんと点灯したのだ。
「ありがたいなあ。ここの持ち主、小劇団の主宰者だったりしたのかな?」
「若い劇団員が集まるから、部屋数が多いし、カジュアルな衣類もストックしてあったのかもしれませんね」
「でも稽古場らしきものはありませんよ」
男性陣のそんなやりとりに、君香さんと堀井さんが笑って、
「うちの物置にも、大掃除のときに”何でこんなものが”って首をひねるものがあったでしょ」
「そうそう。うちは主人もわたしも車の運転をしなかったのに、なぜか古タイヤが一つ、庭の物置に入ってたことがあるの」
夫婦でさんざん不思議がり、ようやく堀井さんのご主人が思い出した。
――ジャッキーの遊び道具になりそうだと思って、修理工場からもらってきたんだよ。
「道々、転がして帰ってきたんだって。だけどジャッキーが全然遊ばなかったので、しまったきり忘れちゃったのよね」
亡き夫と愛犬の思い出を語る堀井さんの表情は明るかった。照明器具と鏡を配置しながら、わたしたちは和やかに笑った。その当時、既に痩せこけていた風間さんでさえ、このときは笑顔を見せてくれた。全ての作業を終えると、夕食には貴重なパックご飯とレトルトのカレーを開けて、互いを労い合った。


