最小数
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恋人たちは手をつないだまま、一人しか入れない棺に飛び込んでいく、私たちはだから、棺からはみ出した、つないだ手を引き剥がしていく必要がある、死に際に最後に1番に愛していた人が、人生で最も愛した人かはわからない、わからないから死後も、手をつないでいたいね、と、頷きながら、二つ並んだ棺からはみ出した手を引き剥がしている。生まれるときもひとりで、死ぬときもひとりだ、というのは本当は嘘です、生まれるときもみんなで、死ぬときもみんなで、海という無数の人々が手をつないだ群れとして、生まれて、死んで、あなたがひとりだったことなど一度もない、人間の最小数はふたりであり、それは互いを理解しえない、決して永遠に一緒にいることはできないという意味で。あなたを愛する人は本当はずっと、ひとりでなくて、みんなと一緒にいる、という、孤独が、あなたをはじめて、みんなから引き剥がす。好きな人と一緒に死んではだめ、好きな人と一緒に死んではだめよ、みんなにあの人を奪われると思ったとき、あなたははじめて孤独で、そしてやっと、その日にきみたちは二人きりになれるから。