町田 どの感想も優しくて、励まされています。
三浦 今は感想をお手紙でという方は少なくなっていますが、それでも、出版されてずっと経ってから、「あの小説が一番好きです」と言ってくださる方がいたり、すごく熱く感想を語ってくださる方がいらっしゃったりする。そんな時、本当に報われたなと思いますよね。
町田 ほんとうにそうですよね。私、単行本で2番目に出した『ぎょらん』の感想とかもらうと、すごくうれしくなっちゃいます。
三浦 『ぎょらん』も発想がすごいですよね。読みながら泣いてしまったよ…。これは葬儀社を取材なさって書いたんですか。
町田 私、昔、葬儀社で働いていたんです。
三浦 そうなんですか。じゃあ、お仕事していたときの経験も踏まえてお書きになったんですね。
町田 はい。いろんな家族を見ていて、ずっと温めてたんですよ。
三浦 そこにこの発想を組み合わせたというのがすごい。
町田 噛み潰すと死者の最期の願いが見えるという設定の「ぎょらん」は、お酒を飲んでる時に思いついたんですけど(笑)。ちょうど内臓っぽくもあるし、いいかなと思って。でもそうしたら、やっぱり、このタイトルとイクラの写真がアップになったような表紙で、ホラーだと思ったって、よく言われますね。
三浦 ホラー的な要素もありつつ、『ぎょらん』もまた思いがけない展開と着地を見せる。うつくしさと、ちょっと不気味な感じを併せ持った、内容を的確に象徴するいい装幀ですね。

三浦しをんさん
三浦しをんさん

―三浦しをんさんは辻村深月さんとともに、R-18文学賞で町田そのこさんのデビュー作の選考にあたっていただいたわけですけど、受賞作「カメルーンの青い魚」の印象は?
三浦 企みがあるところがすごくいいなと思ったのを、よく覚えています。「企み」と言っても、「読者を引っかけて驚かせてやろう」というものではなくて、登場人物の生理や心理に基づいた言動に引き込まれて読んでいくと、驚きが待ってるっていう書き方なんですよね。でも、登場人物たちにとっては、自身の言動は驚きでもなんでもない、当然のことなんだという、その描き方がとても好きだなと思った。そして、小説ならではの企みだなとも感じました。映画でも漫画でも実現が難しい、文章表現でしかできない世界の見せ方、登場人物の見せ方というのが、すごく魅力的でした。小説でどのように見せるか、小説だと何が表現できるのかということに自覚的な方は、デビューしたあとも順調にやっていけるケースが多い気がします。
―三浦さんが魅かれたのは、「小説ならでは」の魅力だったのですね。
三浦 はい。いくらストーリー、あらすじがよくても、そこに何らかの企みがない、つまり小説の特性について自覚的でない人が書くものは、あまりおもしろくないと個人的には思うんですね。これは単に、小説に対する私の好みであって、選考する際の絶対の基準にはしていませんが。とにかく町田さんの応募作には、「小説ならではの企み」と登場人物の生々しい息づかいがあって、同じく選考委員だった辻村さんともども、一推ししました。そのあとに刊行された作品ももちろん読んで、毎回、「これはすごいわ、町田さんすごい」って、自分と比べてしょんぼりしてます。
町田 そこまで褒めていただいて、私は泣きそうです。

(後編は2月1日公開です)