町田そのこ氏
町田そのこ氏

三浦 うん! この後の展開も楽しみです。そういえば町田さんの作品は、連作短編が多いですよね。完全な長編って『52ヘルツのクジラたち』と…、『星を掬う』もそうかな。連作短編がお好きなんですか?
町田 今はまだ連作短編のほうが書きやすいですね。長編になると力んでしまって。走り切るための準備運動に、ものすごく気合を入れないといけない。
三浦 とはいえ、デビュー作の『夜空に泳ぐ〜』からずっと、連作なんだけど、実質は長編として読める作品ですよね。
町田 そのほうが自分の性には合っていると思っています。
三浦 どういうふうにお話を組み立てるんですか。
町田 大体連作短編だと、3行ずつぐらいのあらすじを書いていくんですが、実際に小説を書いてる時に他の短編に出てきたキャラクターのことが引っかかって、「こことここをつなげるんだ」と、自分のなかでパズルが出来上がってくるような感覚があるんですよ。
三浦 たとえば全5話なら、最初に5話分のあらすじと、全体の絡み合いかたが、何となく浮かんでいるんですね。
町田 漠然と人物相関図みたいなのは頭にあって、人物と人物の間にどういう関係があるのかというのが、一話を書いているとどんどん見えてくるみたいなイメージです。
三浦 書きながら、登場人物の思いがけない関係がうまく当てはまっていくのは、楽しい瞬間でしょうね。
町田 そうなんです。どんどんきれいにピースがはまっていって、一つの絵ができるという感覚があります。だから連作短編はすごく書いていて楽しいですね。
三浦 作者の没入感や、登場人物の生き生きした感じが伝わってくるからかなあ。町田さんの小説を読んでいると、ストーリーとは全然関係ない個人的な記憶が、わーっと蘇るんですよ。誰かに言われたことありませんか、「読んでいて過去を思い出す」って。
町田 いや、ないですね。初めて言われました。
三浦 物語に強く引き込まれて読書してるんですけど、頭の片隅が高速回転し始める感覚があって、勝手に過去の出来事だったり感情だったりが思い起こされるんです。夢中で本を読みながら、同時に、「そういえばあの時のあれ、何だったんだろうな」って過去について考えている自分がいる。「いい映画だ…」と映画館でスクリーンを凝視してるときや、「今日の演奏サイコーだぜ…!」ってバンドのライブ観てるときと同じ感覚なんですよ。脳の一部が自分の制御を離れて、激しく思考し始める感じ。
町田 それは、すごくうれしいです。私も映画を観ているときにあります。とても感動しているのに、全然関係ない過去の記憶を思い返している。あれ、何なんですかね。
三浦 わからん。謎の感覚ですよね。ランナーズハイとかライターズハイってあるじゃないですか。それと同じで、「読書ハイ」や「観客ハイ」と言える状態なのかもしれないです。
町田 受け手として、今がピークみたいな瞬間ですね。
三浦 そうそう。あまりにも集中して、気持ちが揺さぶられているからこその、あの不思議な浮遊感。私は町田さんの小説読んでる時、それが起きる確率が高いなって思ってます。
町田 それは、うれしいです。そこまで読者の感情を持っていけたらすごく幸せなことだと思うので。
―町田さんはこれからどういうものを書いていきたいですか。
町田 いっぱい書きたいこと、やりたいことがあるんですよね。ホラーとかも書いてみたいです。
三浦 あ、絶対向いてそう(笑)。お相手の男のいや〜な感じや暴力描写とかも、ほんとひどいし!
町田 クズを書く時が、一番楽しいんですよ。
三浦 輝いてますよ、クズ…!
町田 クズを書く時、タイピングする指がすごく軽いんですよ。これまで、クズ男に引っかかり続けた人生だったからそれが生きているんでしょうね。
三浦 いやいや、素敵な男性もいっぱい書かれているじゃないですか。男性たちの色気がまた魅力的ですよね。クズをやっつけてくれたりもして、最高に格好いい。
―デビュー作の選考会でも「男性が格好いい」って三浦さんはおっしゃっていましたね。
三浦 はい。小さい男の子も含めて、町田さんの小説に出てくる男の人たちは描かれ方が本当に素晴らしい。クズも含めて生き生きしとる。
―説得力がありますよね。
三浦 生々しい痛みと共に、本当にクズなんだなあという感じが伝わってきます。でも、読み終わって嫌な気持ちには全然ならないんですよ。
町田 彼らもまた一人の人間として書いているので。
三浦 とってつけたようなクズじゃないからこそ、「いっそすがすがしいまでのクズだったな、あいつ…」と感慨深いという(笑)。
町田 23歳ぐらいまで、本当にバカだったんですよね私。自分に自信がなかったからなのかな。「好き」とか、「愛してる」とかその程度のことを言われるだけで、ぴゃあーっと舞い上がっちゃって(笑)。18歳ぐらいから、「金がない」って付き合っている相手から言われたら、自分のバイト代とか渡してしまうタイプだったんです。でもそういうのをいろいろ乗り越えて、今41歳なんでね…。思い出すと、少し悲しくなってきた。
三浦 でも、無難で堅実な人と退屈な生活送るぐらいだったら、クズと付き合ったほうがおもしろそうですよ。
町田 はい。おもしろかったです。って、反省がないからクズ男に引っかかり続けることになったんですけど…。
三浦 だってしょうがない。好きだったんですもんね、その人のことを。
町田 そうなんですよ。人生かけてクズだった人ばかりを愛してきました。お陰で、作家として一生分のネタがあると思っています。

(おわり)