累計1000万部突破! 「しゃばけ」シリーズ最新刊『あやかしたち』一章まるごと試し読み②

「しゃばけ」シリーズ最新刊『あやかしたち』刊行記念&アニメ化記念特集

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 最新刊『あやかしたち』の刊行を記念して、表題作の「あやかしたち」を本日から特別公開いたします。

え、えぇぇ!? 「長崎屋」の離れに日の本中の妖も集まっちゃったってぇ!?  勝負に負けたら皆、追い出されちゃうの──? 皆の居場所を賭けた妖たちの大勝負の始まりだ!

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あやかしたち

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 まず茶饅頭と餅菓子が、離れに置かれた盆に、山と並べられた。
 羊羹は、それは太い品を五本、綺麗に切り揃え出された。
 加須底羅は、菓子司安野屋にあったものをそっくり買って、折敷おしきに載せてある。
 団子は三春屋の品で、大皿に、まるで月見団子のように重ねて置かれた。
 そしてだ。菓子が山と並んだ頃、長崎屋の離れには、菓子以外のものも集まってきた。それは顔見知りの妖達で、河童の杉戸すぎと、猫又のとら、天狗の六鬼坊ろっきぼうと、長崎屋では知られた者達であった。
「お三方と会えて嬉しい事です。ですが、突然のおいでですね。驚きました」
 若だんなは、落ち着いた様子で声を向けると、三人の代わりに、妖狐が返事をした。そして自分達が、この離れへ呼んだと告げてくる。
「おや、守狐が皆さんを呼んだんだ」
「ええ。ですが急な事でしたので、河童の大親分禰々子ねねこ姉さんは、遠方におられまして。代わりに一の子分であるこの杉戸さんが、来て下さいました」
 手下も付いてきたが、人数が多いので、長崎屋近くの川で待たせているという。虎と六鬼坊が笑った。
「守狐から聞いたよ。突然、知らない妖に離れへ踏み込まれて、小鬼が殴られたんだって? そりゃ驚いただろう」
 守狐達は、若だんなが襲われた後、比々が何故来たのか、大急ぎで調べたようなのだ。すると比々は、遠方から他の妖達と一緒に、長崎屋を目指していたという話を摑み、総身の毛を逆立てた。長崎屋は見知らぬ妖達に、目を付けられていたのだ。
「それで我ら守狐は、打てる限りの手を打ちました。今は非常時であり、長崎屋の妖狐のみでは数が足りません」
 妖狐は、何としても味方を増やす為、知る限りの妖に、大急ぎで加勢を頼んだという。長崎屋から素早く、使いを送ったのだ。
よわい三千年の皮衣かわごろもにして、我らがあるじたるおぎん様の、御孫君、若だんなを守らねばなりません。我らはおぎん様が長崎屋へ配された、守狐なのですから」
 ありがたい事に、加勢は直ぐに得られた。
 河童は、江戸の堀川で船頭をしていたので、直ぐに長崎屋へ来たし、猫又の虎達は、手ぬぐいを貰う為、戸塚から通町とおりちょうへ来ていた。天狗は羽団扇はうちわの力を使い、あっという間に空を駆け、離れへ舞い降り、まだ味方の来訪を知らなかった、長崎屋の妖達を驚かせたのだ。
 もっともその時、一番慌てたのは、せっかく買って貰った菓子を、客へ出されてしまった、小鬼達であった。
「きょんげーっ、鳴家のお菓子が、一大事っ」
「小鬼、今日のお菓子はお客様に出すけど、明日また、もっと沢山、お菓子を買うから。それで我慢してくれないかな」
 明日は金平糖こんぺいとうも買うと、若だんなが約束したところ、頑張って我慢すると、小鬼達は雄々おおしく約束した。
「でもちょこっとだけ、今日のおまんじゅも、欲しい」
 ただ。
 まずは皆で菓子を頂こうと、離れでくつろいだ時、新たな騒ぎが起きた。長崎屋の庭に面した木戸が開くと、何と、仁吉が殴り飛ばした比々と、見知らぬ妖達が、堂々とまた長崎屋を訪ねてきたのだ。
「これは…驚きました。比々が仲間を連れ、また現れるとは。ああ、青鬼あおおに赤鬼あかおに鉄鼠てっそ木魚達磨もくぎょだるま大座頭おおざとう百々爺ももんじい五徳猫ごとくねこがいますね」
 兄やが思わず漏らしたので、離れにいつにない緊張が走る。すると比々達は、離れに近づくと、突然膝を突き、若だんなへ深々と頭を下げてきた。
「先程は、こちらの離れを襲って、申し訳ありませんでした」
 開口一番、仲間と一緒にそう言ってきた。
「おれ、てっきりもう、勝負は始まっていると思ったんだ。で、何としても勝ちたかったんで、間違いをしてしまいました」
 比々は必死に話してきたが、その間も横にいた鬼から、頭をはたかれている。どうやら若だんな達を襲った件は、相手方の妖達にとっても、良き事ではなかった様子だ。
「本当なら長崎屋の妖だけと、戦わなきゃならなかったんです。勝負をする相手は、妖なんだ。なのに」
 比々は少し顔を上げると、何とも誠実な口調で言ってきた。
「若だんなにも拳を振り上げ、本当にすまない。おれ、反省してます」
「きゅんげ?」
「いや、その通り。間抜け者め」
 仲間達は比々と共に、謝りを入れてきた。
「申し訳ない。若だんなへの無礼、この通り謝罪申し上げる」
 若だんなや長崎屋の妖達は、離れで目を見合わせ、言葉を失っていた。そして、どうしても聞きたくなったので、若だんなは比々達に声を向けてみる。
「あの、比々さんが大真面目に、謝ってくれてるのは分かるんだ。ただ私だけじゃなく、殴った小鬼にも謝ってくれたら、もっと嬉しいよ。そしてね」
 先程から一体、何の話をしているのか、若だんなにはさっぱり分からないのだ。
「勝負って、何の事? 比々さん達が、長崎屋の妖達と、何で戦うの?」
 何より、そこのところが分からず、困っていた。
「お前さん達は何者なの? 何の為に長崎屋へ来たの? うちの妖達に勝ちたいのは、どうして? 何で私だけは関係がないの?」
 若だんなの正直な言葉を聞き、長崎屋の面々や、客の妖達が一斉に頷く。初めて顔を見る怪異と、いきなり勝負をすると言われ、皆はただ戸惑っているのだ。
 すると今度は、問われた青鬼達が大きく首を傾げ、眉間みけんしわを寄せた。
「はて、何故そんな事を聞かれるのでしょう」
 するとその時、思わぬ者が、良いですかと言って耳目じもくを集めた。それは何と、禰々子親分の一の子分、河童の杉戸であった。
「長崎屋と比々達、両方の妖が、困った顔をしておりますな。あのぉ、わたしには、その事情が、分かりそうですが」
 杉戸はにやりと笑うと、皆をゆったり見てから、今回の件について語り出した。