累計1000万部突破! 「しゃばけ」シリーズ最新刊『あやかしたち』一章まるごと試し読み⑦

「しゃばけ」シリーズ最新刊『あやかしたち』刊行記念&アニメ化記念特集

更新

江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 最新刊『あやかしたち』の刊行を記念して、表題作の「あやかしたち」を本日から特別公開いたします。

え、えぇぇ!? 「長崎屋」の離れに日の本中の妖も集まっちゃったってぇ!?  勝負に負けたら皆、追い出されちゃうの──? 皆の居場所を賭けた妖たちの大勝負の始まりだ!

*****

あやかしたち

あやかしたち

  • ネット書店で購入する

     6

 気がつくと長崎屋の庭には、更なる妖達が集い、妖の組は五つになっていた。
「きょんげーっ、大変っ」
 長崎屋の離れに、魂消て走り回る小鬼達の大声が響いた。
 丁度ちょうど昼で、奉公人が蔵へ来たりしたので、新参の妖達を隠すため、兄や達が離れの周りに、急ぎ強い結界けっかいを張った。よってとりあえず不安は減ったが、兄や達は新参者達へ、さっさと戦って、数を減らせと言ったのだ。
 火幻など、妖同士の戦いに興味津々きょうみしんしんで、今日は往診おうしんを放り出して、離れに居着いてしまった。
「凄いですねえ。妖の技量、馬鹿には出来ませんねえ」
 例えば、屛風のぞきと算盤を引き分けた鉄鼠は、その勝負を知った算盤自慢じまんの妖三人から、挑戦されていた。
「鉄鼠さん、全ての戦いで勝ってます。しかも、離れで算盤を使うのに慣れてきたのか、段々計算が速く、正しくなってます」
 大急ぎで、長崎屋へ呼び戻された判定人の虎も、感心しきりだ。猫又の虎は、鉄鼠程の腕前があるなら、猫又が主をしている店で働いて欲しいと、言い出した。
「鉄鼠さんは鼠だけど、猫の店で働いてもいいのかって? うん、われらは構わないよ。鉄鼠さん、使える妖だもの。うん、立派だ」
 鉄鼠は虎の褒め言葉に、照れていた。そして算盤勝負で四人目の妖を倒すと、片手を上げ、妖らの歓声を浴びている。
 するとその時、長崎屋の外で、別の戦いを見ていた妖達が、興奮した顔で知らせてきた。
「若だんな、聞いて下さい、若だんな。凄い勝負を見ちまいました」
 屛風のぞきが、目をきらめかせている。
「河童の杉戸さんが、猪牙舟ちょきぶねの競争をしたらどうかって、案を出したんですよ。河童は船頭として、稼いでます。堀川で猪牙舟を操るには、立派な腕が必要なので、勝負事に向いているそうです」
 それで猪牙舟に、客役の妖を二人ずつ乗せ、堀川で競争したのだ。新参妖四組が挑んだ。
「まずは二組ずつ競って、勝ち残った者同士で決戦を行いました」
 力の強い一本角の鬼と、水虎すいこという、子供のような姿の妖が、舟をぎ、戦うこととなった。すると。
「驚きましたよ。水虎が勝っちまったんです」
 その見事なの扱い方から、水に関わる妖かと問われると、河童の遠縁のような妖だと、当人から返答があった。判定人の杉戸が深く頷き、水虎は水の側で働いた方が良かろうから、河童の持つ猪牙舟で船頭にならないかと、声を掛けたのだ。
「笠をかぶれば、少々人に化けるのが不得意でも、何とかなるって分かってます」
 ただこの話は、まだまだ勝負が続く中、判定人が邪魔をしてはならないと、他の妖らから文句が出て、杉戸が謝る事になった。
「けほっ、色々な…げほげほげほっ」
 話そうとした途端、寝ている若だんなが咳き込んでしまうと、これでは一位になった新参達との勝負を、いつやれるだろうかと、判定人達が心配を始めた。
 そして更に、天狗の六鬼坊が若だんなへ、別の心配も向けてくる。
 不安に包まれたまま、今まで、誰も口にしてこなかった問いであった。
「ところで若だんな、この先、一番になった新参者と、長崎屋の皆が戦ったとして、もし新参達が勝ったら、今、側で暮らしてる妖達は、どうするんだい?」
 長崎屋の面々の顔が、一斉に引きつる。すると、猫又の虎も問うた。
「長崎屋から出すのかい? そうなったら皆は、どこへ行くか、決まってるのかな?」
 ちなみに、おしろは同じ猫又だから、当人が嫌でなければ、戸塚へ来て貰っても構わないと、虎が言ってくる。おしろは驚いた顔で、頭を下げた。ただ。
「あたしはずっと、このお江戸で過ごしてますでしょ。だから今更余所よそでは、暮らせませんよ。でも、誘って下さってありがとうござんした」
 おしろは長崎屋の一員として、勝負を始めてしまったのだ。
「だから、負けたとき暮らす他の場所を、考えておかなきゃ駄目なんですよね。でも、こんな日が来るなんて、考えた事なかったから、何もしていないわ」
 おしろが戸惑いつつ、つぶやいた時、若だんなが小さく手を上げた。妖達の目が、一斉に寝ている若だんなを見つめる。そして。
「それはごほっ、げふっ、けほほほっ、げふふふふっ、ごほーっ」
「返事はありがたい。だが若だんな、何を言っているか、さっぱり分からん」
 虎が、正直に言ってきた。