お芝居だけは最初から好きだった。

 とはいえ役者志望だったわけではないんです。
 学校の成績はいつもオール3でした。全科目苦手ではないけど、得意でもない。体育にたとえると、運動神経が悪いわけではないけど、足が速いわけではなくて、しかも僕自身それでいいと思っているから、悔しくもない、全くできないわけじゃないから。開き直っていたわけでもなくて、本当にそう思っていたんです。だから褒められも怒られもしなかったのですが、初めて褒められたのが、学芸会の演劇の練習だったんです。
「みんなも前川くんみたいに堂々と演技してね」と先生に言われたのが、本当に嬉しくて。学芸会当日をとても待ち望んでいたのですが、本番で他の人の台詞を僕が言っちゃうという大失敗をしでかしてしまいまして…。反省の弁も含めてそのことを卒業文集に書いたら、それを、同級生のお姉さんで進学予定の公立中学の演劇部の部長が読んでくれていたんです。
 彼女に誘われるままに見学に行ったら本当に楽しくて、そのまま入部しました。周りには、小学校の時にやっていたミニバスが実はしんどくて、中学ではやりたくないから演劇部に入るって言ったのですが、たぶん本当は、学芸会の練習で褒められた時から、お芝居が好きだったんだと、今はそう思います。
 高校は成績の届くレベルの公立高校に進学するつもりでしたが、パフォーマンスコースという、本格的にお芝居を学べる高校に進学した先輩の舞台を見に行ったら、本当にすごくて。強烈な印象で衝撃を受けて、この高校に行きたいって強く、本当に強く思ってしまったんです。
 いてもたってもいられなくて、無理を承知で母にこの高校に行きたい、演劇をしたいと訴えたら、母は僕が自ら何かをやりたいと言うのを待っていたんでしょうね。「どんなスポーツや習い事を見学させてもやりたいって言ったことがなかったあなたに初めて自分からやりたいことが見つかったのなら、その高校に行きなさい」って言ってくれたんです。金銭的にも負担をかけてしまうのに、それでもそう言ってもらえたので、僕もがんばって勉強して、その高校に合格できたときは嬉しかったですね。
 高校三年生の時にレギュラー番組のお仕事が決まって、その頃には、演劇の世界で生きていきたいと気持ちも固まっていたので、声をかけていただいていた今の事務所にお世話になることにしました。母に、「役者になりたい、役者を仕事にしたい、そう生きていきたい」と決意を伝えたら、「そういう生き方を選ぶと思っていた」と。
 何年だって実家で暮らしていいから、中途半端に大学に進学しないで、しっかりお稽古して、アルバイトしながら遊ぶお金は自分で稼ぎなさいと言われたんです。変わった人ですよねぇ。とりあえず大学に進学なさい、役者としてやっていけなくても、卒業したら安定した仕事に就けるからって言われそうなものなのに(苦笑)。けどその言葉のままに、高校卒業してからは、お稽古に行って、夜勤のアルバイトをして、またお稽古に行って、夜勤のアルバイトをしてという生活を送っていました。身体はきつくても、初めて「やりたい」と言えたことだったし、母親に後押ししてもらえたし。おかげさまで生活に困ることはなかったので、ほんと、母には一生かないません。パワフルでアクティブでハピネスな人間なんです。そんな母が応援してくれるからこそ、役者であり続けたいと、思い続けていられるのかもしれません。

僕と一太郎の共通点

 7月30日から始まる「シャイニングモンスター2てんげんつう」で僕が演じる一太郎は、思慮深くて芯が強い。僕もそれらを兼ね備えないと、太刀打ちできないというか、一太郎というキャラクターに負けてしまうと思うんです。それは誰より一太郎に申し訳ない。
 一太郎は自分の身体が弱いことを知っているから、時間の使い方に重きをおくというか、無為に過ごすという類いの使い方を選ばない人だと思うんです。彼の一挙手一投足には意味があって、自分がすべきことに忠実。直感に頼ったり本能的に動くタイプではなく、思考を重ねつつ、様々な言葉に耳を傾ける柔軟さを持ちつつ、答えを導き出しますよね。そうして行き着いた答えには、たとえその結論が日の目を見ても見なくても、譲れないという頑固さが最終的にはある。
 そういう柔軟さと頑固さ両方を持ち得ているところは、僕も似ているかな。僕は様々な意見の数だけ正解があると思っているので、思考過程でそれらを受け入れられるという点では柔軟です。同時に最終的な結論を何に委ねるかというと、それはやはり僕自身だから、そういう意味で頑固です。あとね、ハピネスな母のDNAを受け継いだ僕もハピネスな人間だと思うんですが、一太郎もそういう面があるかな、だから芯が強いんじゃないかなと思います。
 初演の時に、「シャイニングモンスター」を観てから原作を読んでくださった方たちから「原作を読んだら原作も好きになったので、いつか私の好きな作品をシャイモンにして欲しいです。けどきっと、私が想像する舞台にはならないと思うけれども。それでも、新しい世界を見せてもらえたらうれしいです」というお手紙や声をいただくことが多くて、本当にうれしかったです。想像とは違っても面白いと、楽しいと感じてくださっているからなので。今回もそう感じていただけるように精一杯頑張ります!

 

畠中恵「しゃばけ」シリーズPresents
シャイニングモンスター 2nd step~てんげんつう~

【出演】前川優希、井澤勇貴、小沼将太、瀬戸祐介、真城めぐみ、柳沢卓/加藤将【原作】畠中恵 【演出】錦織一清 【脚本】神楽澤小虎MAG.net
【日程・劇場】 2022730()84日(木)  浅草花劇場

 

 

前川優希(まえかわ・ゆうき)
1997年12月17日生まれ。東京都出身。特技は殺陣とダンス。趣味は散歩、読書。
【オフィシャルブログ】前川優希オフィシャルブログ
【オフィシャルYouTubeチャンネル】前川優Tube放送局
Twitter@yuyukiki535