生まれ変わったら、僕は大工さんになりたい

 つかさんは人間観察がとても好きでした。ひと目見て、何かを見抜いて、その何かから芝居が始まる。演じていてはだめなんです。つかさんが「こうだ」と言ったらそうで、役者は言われたことをふたつ返事で黙って言うとおりにやればいいということなんですよね。それは実に正しいし、芝居を作る時のルール上、そうでないといけません。そういう、役者は本来、舞台でどういう風に立ち振る舞うべきかということをつかさんに教えてもらいました。
 建築にたとえてみましょうか。家を建てる時、施主がいて、施工が存在しますよね。芝居では、プロデューサーは施主ですよね。役者はどちらかというと大工、作るほうです。たとえばベテランの大工さんが100平米の土地を見て、「この広さなら平屋建てがいいな」と思っていたのに、施主から2階建てをリクエストされたら、内心その選択はカッコ悪いなと思っても、それを言ってはいけませんよね。その上で最高の2階建ての戸建てを作るわけじゃないですか。役者も同じです。

てんげんつう

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 だからというわけではありませんが、生まれ変わったら、僕は大工さんになりたい。いや、絶対に大工さんになる。
 30歳になる頃、ふと芸能の仕事をしていることが、芝居をしていることが社会貢献になっているのかなと思ったことがあって。我々の仕事は、第一次産業ではないので、たとえなくても人は暮していけます。生活に支障はなくて、いわばゆとりの部分ですよね。余裕があったら観に行ける類いのものです。だから、次に生まれたら、社会の役に立たなければって思っているんです。祖父が木製の折箱職人だったので、その気質も受け継いでいるのかもしれません。そもそも物作りが好きで、プラモデルを作っても完成したら友だちにあげてしまうような子どもでしたから。作る課程が楽しいんですよね。
 それに家って一生で一番高い買い物じゃないですか。それを腕一本で作れるってかっこいい。だから最近は、YouTubeで家づくりの動画ばかりを見ているんです。この大工さんの作ったこういう家に住みたいな、僕もそう思われたいなって思いながら。今は何の技術も持っていませんが、休みの日は、意味なくホームセンターにばかり行っています。ドライバーセットばかり買ってしまうから、家中のあらゆるところにドライバーセットが(笑)。ホームセンターと、あとは文房具屋さんも大好きで、僕の落ち着く場所です。その上で、好きな人と仕事をして、そのつながりを大事にする。それが一番幸せなんだと思います。7月30日から上演中の、畠中恵先生原作「しゃばけ」シリーズの舞台「シャイニングモンスター2nd step」も、好きな人との仕事なので僕は幸せです。皆さん、楽しみにしていてください!

畠中恵「しゃばけ」シリーズPresents
シャイニングモンスター 2nd step~てんげんつう~

【出演】前川優希、井澤勇貴、小沼将太、瀬戸祐介、真城めぐみ、柳沢卓/加藤将【原作】畠中恵 【演出】錦織一清 【脚本】神楽澤小虎MAG.net
【日程・劇場】 2022730()84日(木)  浅草花劇場

 

 

 

錦織一清(にしきおり ・かずきよ)
1965年生まれ。東京都出身。小学生のときにジャニーズ事務所に入所。アイドルグループ「少年隊」のリーダーとして一世を風靡。テレビドラマや舞台を中心に俳優としても活躍。その後、舞台演出にも積極的に関わるように。ミュージカル『グレート・ギャツビー』や『蘭~緒方洪庵 浪華の事件帳』などさまざまな作品を手がける。
【オフィシャルサイト】錦織一清オフィシャルサイト「Uncle Cinnamon
【Twitter】@uncle_cinnamon