“禁断”とも“耽美”とも違う、リアルな同性愛を描く――君嶋彼方さん『だから夜は明るい』第1章丸ごと試し読み②
「いまは多様性の時代だから」こそ読んでほしい! 君嶋彼方『だから夜は明るい』刊行記念特集
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2021年に小説野生時代新人賞を受賞し、『君の顔では泣けない』で鮮烈なデビューを果たした君嶋彼方さん。入れ替わった男女の”その後”を描いた同作は、髙橋海人×芳根京子のW主演での映画化が発表され、いま大きな注目を集めています。
先の読めないスリリングな展開と、繊細でエモーショナルな筆致で読者を魅了してきた著者が、最新作『だから夜は明るい』で挑むのは、どこまでも等身大でリアルな同性愛の物語。
本作の刊行を記念して、第一話「ヴァンパイアの朝食」を全7回にわたり特別公開いたします。
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ざっと掃除と洗濯を済ませ、トレーニング用のウェアに着替えてジムに向かう。駅と自宅のちょうど真ん中ほどの距離にあり、それなりの規模なのでいつ行っても人が多い。土地柄のせいか健康志向の老人が多いが、時折隆々とした筋肉の持ち主がベンチプレスをしていたりもする。僕らはその人々の隙間を縫って、マシンのあるスペースへと向かう。「あ、そうだ祥太、帰りにマツキヨ行きたい。柔軟剤もうなくなりそうなんだった」
「おっけー。おれもワックス買いたかったからちょうどよかった」
「寄るの忘れそうだなー。もし忘れてたら言って」
「いやー、保証はできませんね」
「なんでだよ、してくれよ」
へらへらとした笑いが返ってくる。髭がないと随分と幼い顔立ちに見える。
僕らは分かれてそれぞれ目的のマシンへと向かう。混んでいるせいで並んでトレーニングできたことはほとんどない。
チェストプレスで胸を鍛え終え、一息つきながらタオルで汗を拭く。続ければ成果もそれなりに出てくる。二年で七キロ増えた体重は一年で五キロ減り、腹筋も薄うっすらと縦に割れている。スキニーパンツは脚が鍛えられてしまったせいで結局入らなくなり、メルカリで売った。
それでも一度根付いた漠然とした不安は消えない。誰だってそうだけれど、いつまでも若くはいられないのだ。自分から若さを取ったとき、一体何が残るんだろうと考えるとぞっとする。
ふと、向かいのベンチプレスの椅子に座っている男の人が目に入った。二十代前半だろうか、アイドルのように可愛らしい顔をしているが、シャツから伸びる腕は太く血管が浮き出ている。そのギャップについ見入っていると、彼がシャツをたくし上げるようにして裾で額の汗を拭った。くっきりと六つに割れた腹筋と、ボクサーパンツのゴム、そして鍛え上げられた胸筋の谷間が露わになる。おおっ、と思わず身を乗り出すと、不意に目が合ってしまう。さすがにばつが悪くて目を逸らそうとすると、恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を向けてきた。えっ、何どういうこと、とドキドキしていると、急に頭を誰かに叩かれる。
「いてっ」声を上げてその誰かを睨み付けると、祥太だった。
「こんなところで浮気する気ですか」
首筋をタオルで拭きながら、じろりと僕を睨み返す。思わず不貞行為を目撃されたような気分になって、僕は狼狽える。マシンから立ち上がり、備え付けのタオルで器具を拭きながら慌てて言い訳する。








