正義は、悪は、絶対なのか。価値観のゆらぐ今こそ問いたい、「日本ファンタジーノベル大賞2026」受賞作『朱天の都』試し読み③
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森見登美彦さん、畠中恵さんなどを輩出した前身の「日本ファンタジーノベル大賞」の衣鉢を継ぐ形で復活して以来、最終候補作のレベルの高さで各選考委員を唸らせ、気鋭の受賞者を世に送り続けている「日本ファンタジーノベル大賞2026」。今回の受賞作は、令和によみがえる酒呑童子伝説『朱天の都』(加賀谷きよい著・新潮社刊)です。
舞台は、政治腐敗が進み、都を取り巻く山に鬼が跋扈していた平安中期。尚侍は偶然出会った鬼の首領・朱天童子と密かに交流を深めていますが、近年の禍を全て鬼のせいだと断じた帝は朱天の討伐を命じます。
「キャラクターの肉付けがいきいきとしていて、おかしみもあり、読んでいて素直に楽しめた。オチも好感が持てる。」恩田陸。
「鬼たちを生み出す過酷な社会の描写には、うっすらと現代社会も透けて見え、「うねりのあるストーリーを語ろう」という心意気が強く感じられた。」森見登美彦。
「思いがけない発想と展開に好奇心を突き動かされた。利他のふりをした利己があたりまえに横行する現代の世の中で、この物語は読む価値がある。」ヤマザキマリ。
人を脅かすものの正体は本当に鬼なのか。
人と鬼、共に生きることはできないのかと問い続けた、選考委員も大絶賛の本作の冒頭部分を試し読み公開いたします。
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「話は聞いてたぜ。よし、こうしよう。姫さん、俺があんたの代わりにこのひげ面と勝負する。勝ったらこの店の酒は全部あんたのもんだ」
「ふざけんじゃねえぞ! この餓鬼が、どっから湧いて出た?」
酒屋の主人が凄む。が、鬼は涼しげに微笑んで、すっと人差し指で天を指し、そのまま西の空に向けた。愛宕山、残照。
「太陽が沈んだ。俺たちの時間だ」
にっと笑った形の良い唇から、ちろりと黒い牙がのぞいた。
「で、勝負だ。乗るか? それとも……」
鬼がパチンと指を鳴らした。と、人混みががばっと大きく割れて、ぞろぞろと鬼の集団が現れた。十五、六人はいるだろうか。皆一様に赤い小袖や水干を着ている。ごろつきの数とそう変わらないが、鬼の体格は総じて人よりひと回りふた回りは大きいのだ。並んで立つと、腕っぷし自慢のごろつきたちがまるで童のよう。そんな大鬼たちを、一人小柄な彼岸花の童子が従えていた。
さあいよいよ始まるのか? 鬼とごろつきの大喧嘩――! と、場に緊張が走ったその時。彼岸花の童子がからからと笑いだした。
「つっても、殴り合いの勝負じゃあんまりそっちが可哀想だしなあ。そうだなあ……その酒、そいつの呑み比べってのはどうだ?」
「……っ!」
酒屋の主人が言葉を失ったところに、これまた場に全くそぐわない明るい声で女が割って入った。
「ねえ、あなたね。勝手に話を決めないでくれるかしら?」
「そっ、そうや! 部外者は引っ込んで――」
「その勝負、わたしも参加するわ」
「はああ?」
酒屋の主人と鬼が声を上げたのは同時だった。








