【試し読み】960万部突破「しゃばけ」シリーズ最新刊『いつまで』②

【試し読み】960万部突破「しゃばけ」シリーズ最新作『いつまで』

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 若だんなが仁吉に、薬升のことを相談すると、熱冷ましと、腹薬を作る為の升が、早々に作られた。
 だが、それを長崎屋の店表で使う前に、仁吉は離れで、若だんなと屏風のぞきへ話をした。作った薬升を前に置き、この升は、それは慎重に扱わなければならない、大事な物だと告げたのだ。
「この薬升が一組あれば、長崎屋で売っている薬と同じ物が、沢山、簡単に作れますから」
 つまり薬升を奪われたら、薬の処方を盗まれるのと、同じ事になってしまうと言う。
「ですからこの薬升は、若だんなと、この仁吉、それに屏風のぞきだけが扱うこととします」
 長崎屋の身内以外が、手にしては駄目だと言われ、屏風のぞきは一寸、顔を赤らめた。そして何度も頷くと、自分は確かに長崎屋の身内だと、嬉しげに言ったのだ。
「分かったよ。つまりこの薬升を使う日は、仁吉さんから預かって、使い終えたら、仁吉さんへ返せばいいんだね。他の奉公人達に、預けちゃいけないんだ」
 かわやへ行ったり、他の用が出来て、薬升を預かれなくなった時は、仁吉や佐助さすけ、若だんなへ渡すのだ。万一、誰も居なかった場合は、そっと影の内へ隠してくれと仁吉は口にした。
「ははあ、影が使えるから、妖のあたしに、預けることにしたんだね。なら、金次に預けてもいいよな? うん、承知した」
 自分が、思いがけない程、大事なものを作ってしまったと知り、若だんなは一寸、不安を口にした。だが仁吉は笑って、薬の配合法をまとめたものは、すでに、長崎屋にあると言ってくる。
「長崎屋の薬帳です。ええ、大事にしまってあります」
 表向き帳面は、藤兵衛とうべえが預かっている。つまり薬帳は、蔵にある箱におさめられているのだ。
「そしてその箱は、妖の影につながっておりまして。開けても勝手に、薬帳は取り出せません。ぞくでも動かせないし、盗めないんですよ」
 蔵の箱は、薬種問屋長崎屋の先代の妻で、大妖皮衣たいようかわごろもであるおぎんが、長崎屋を守る為、特別に作らせたものだ。よって深い影と繋がり、下手へたをしたら、中から奈落ならくへ落ちかねない代物しろものなので、今は、仁吉が預かっているという。
「薬種問屋に、妖がもう一人関わっていたのは、都合の良い話です。屏風のぞき、お前さんも影の内へ出し入れ出来るよう、やり方を承知しておいてくれ」
 普段はその箱に、薬升も入れておくという。付喪神は、珍しくも神妙な顔つきになった。
「大丈夫、ちゃんとやるから」
 若だんなは屏風のぞきに、頼りにしていると言い、笑った。そして明日は皆でゆっくり、薬升が出来た祝いをしようと、ご馳走ちそうを用意する事にしたのだ。