作家・小川哲が、著者・水野太貴の10億秒をかけて伝える『会話の0.2秒を言語学する』【BOOKレビュー】
『会話の0.2秒を言語学する』水野太貴 特集 「0.2秒」をさらに言語学する
更新

「小説とはやり直しのできる飲み会である」と自著『言語化するための小説思考』の1ページ目で喝破された作家の小川哲さん。
書店を回遊して本を選ぶ動画(出版区<【小川哲】直木賞作家と本屋へ!本気の買い物に密着!!>)で水野太貴さんの『会話の0.2秒を言語学する』をおもしろがってくださっているのを拝見し、それなら「0.2秒の書評を」とお願いしたところ、「10億秒」の書評をいただいた!
*****
あなたは、水野太貴という人物をご存知だろうか。
知っている人の大半は、YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」のパーソナリティーとして彼のことを認知したのではないか。ベストセラーとなった本書『会話の0.2秒を言語学する』の著者として知った人も多いはずだ。珍しい例として、学生時代の友人や、職場の同僚として知り合った人もいるだろう。
僕は麻雀を通じて知り合った。かなり珍しいと思う。水野さん(普段の呼び方で申し訳ない)と過ごした時間の八割くらいは麻雀をしている。そのせいで、水野さんとはそんなに話をしたことがない。麻雀卓に集中していると、まともな会話をするのは難しいのだ。
麻雀にも唯一の例外があって、「立直」をすると喋る余裕が生まれる(麻雀には「立直」という役があって、一度宣言したらあとは引いてきた牌を切るだけでいい)。立直の後は麻雀に頭を使う必要がなくなるので、喋ることが可能になる。
そして水野さんは自分が立直をすると、途端によく喋る。最近仕入れた雑学の話や、仕事で知ったおもしろい話を多分している。「多分している」と表現したのは、僕を含む水野さん以外は麻雀に集中しているので、水野さんの話を誰も真剣に聞いていないからだ。
「多分している」という表現には、もう一つの側面がある。僕は水野さんの話が本来おもしろいことを知っている。僕は「ゆる言語学ラジオ」のヘビーリスナーなので、堀元見さんとの当意即妙なやりとりや、話題に対する的確で興味深いエピソードの数々を毎週聞いてきている。だから「きっとおもしろい話をしてるんだろうな」なんて思いながら、頭の中では一萬を切るか六索を切るかで悩んでいたりするわけだ。
本書も「きっとおもしろいんだろうな」と思いながら、予約購入してすぐに読んだ。やっぱりおもしろかった。おもしろかったのだが、少し心配になった。本書はおもしろすぎるのだ。言語学という難しい学問を扱いながら、退屈なページが一切ない。引用されるエピソードも、水野さんの個人的な体験談も、全部おもしろい。
でも、どこか心配だ。
友人に旅行の計画を丸投げしたら、分刻みの完璧なスケジュールを組まれ、ホテルもレストランも移動手段もすべて手配されていた、みたいな気分だ。もうちょっと適当でも十分楽しいのに、と感じてしまう。








