『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』第1章 試し読み【4】
【試し読み】アニメ化決定!『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』第1章
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「わ、本当に人が来た」
プールはフェンス状の柵に覆われていた。その扉を開くと、頭上からぎょっとした様子の声が落ちてきた。体育館裏に設置されたプールは、有り余る敷地に合わせたせいか、随分と大きなサイズをしていた。五〇メートルの長さに、ずらりと並ぶ十個のレーン。深さは一五〇センチもあり、舞奈の背丈を僅差で上回っている。
「ちょっと千帆、その言い方は失礼でしょ」
眼前に飛び出してきた二人組は、舞奈たちとは違う名札の色をしていた。白色のプラスチックプレートは、二年生の証だ。ちなみに、舞奈たち一年生は青いネームプレートを付けさせられている。これがなかなかにダサいと専らの評判で、ほとんどの生徒は授業が終わると同時に外す。しかし、目の前の先輩二人は相当に真面目な性格なのか、放課後だというのに律儀に名札を付けていた。
「あ、そうか。えっと、その……ようこそカヌー部へ?」
「なんで疑問形?」
「いや、入ってくれるか分かんないから」
「こういう時は堂々としなさいよ。勢いで勧誘すればいいでしょ」
「勢いって言っても、私こういうの苦手なんだもん」
「頑張りなよ副部長」
「副部長とかあってないような役職じゃん」
ポンポンと飛び交う会話に、舞奈と恵梨香はその場で黙っていることしか出来ない。この二人がこれから自分たちの先輩になるのだろうか、と舞奈は冷静に両者を観察する。
副部長と先ほど呼ばれた生徒は、舞奈に似て小柄な体格をしていた。垂れ下がった眉と小動物のように大きな瞳からは、なんだか気弱そうな印象を受ける。二つに束ねられた髪の毛先が、自由気ままに飛び跳ねていた。
その傍らに立つ女子生徒は、舞奈よりも一〇センチほど高い位置に頭がある。ぴっちりと斜めに分けられた黒髪は、如何にも優等生という感じだ。高い位置できつく縛られた髪に、きりりと釣り上がった眉。怖そうな人だ、というのが舞奈の素直な感想だった。
置いてけぼりにされた後輩たちにようやく気付いたのか、背の高い方の先輩がコホンと軽く咳払いした。
「あー、ごめんね。まずは自己紹介から。私は部長の鶴見希衣。で、こっちが副部長の天神千帆。なんと、我がカヌー部の部員はこの二人だけです」
「部員、少ないんだよねぇ」
頬に手を添え、千帆がおっとりとため息を吐いている。他の学校のカヌー部がどの程度の規模で活動しているかは知らないが、やはり二人というのは相当に少数なのだろう。両腕を組んだまま、希衣が足を肩幅に開いた。
「で、二人の名前は?」


