『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』第1章 試し読み【5】

【試し読み】アニメ化決定!『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』第1章

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イラスト/おとないちあき
イラスト/おとないちあき

 ぼちゃん、ばしゃん。聞きなれた水音が、舞奈の耳元で鳴いている。次の日も、そのまた次の日も、舞奈はプールでカヌーに乗る練習を繰り返していた。
「ちょっとだけど乗れる時間が伸びてきたね。大丈夫、この調子」
 二つに結わえた髪を揺らしながら、千帆は穏やかに微笑ほほえんだ。何度も失敗を繰り返しているというのに、千帆は小言一つ言わず舞奈の練習に付き合ってくれている。大丈夫だよ、と励ましの言葉を掛けられる度に、舞奈の良心はズグズグと刺激された。
「ごめんなさい。千帆先輩も練習したいのに」
「私のことは大丈夫。それに、カヌーを始める子が一人増えたってだけでうれしいから」
「でも、希衣先輩たちみたいに千帆先輩も荒川に練習に行きたいんじゃないですか?」
「朝練で乗ってるから大丈夫。舞奈ちゃんは何も気にしなくていいからね」
 ながとろ高校から荒川は、目と鼻の先にある。恵梨香と希衣はカヌーをかついで川へと向かい、問題がないか監視するために檜原もその後を追った。残された舞奈と千帆だけが、こうして相変わらず同じような練習を続けているというわけだ。
「私も川で練習したいなぁ」
 舞奈の呟きに、千帆はただ柔らかに笑う。
「もう少ししたらね。そしたら、恵梨香ちゃんと一緒に練習できるから」
「千帆先輩も希衣先輩と早く一緒に練習したいですか?」
「ふふ、まあね」
 何度もプールに落ちる舞奈を見かねてか、今日の千帆は濡れてもいいようにラッシュガードを着用している。プールサイドに座る彼女は、膝小僧から下の部分を水の中に浸していた。舞奈はその傍らにちょこんと三角座りをすると、足の指を小さく丸めた。ライフジャケットを脱ぐ。ただそれだけで、身体は少し軽くなった。千帆が小さく笑う。
「恵梨香ちゃんって、背が高いよねぇ。一七〇超えてるでしょ」
「身体測定の時に、前より伸びたって言ってました」
「いいよね、背が高い人って。希衣だって一六〇あるんだよ? 私、一五五しかないのに」
「私なんて一四八センチですよ。一年で五ミリしか伸びなかったんです」
「お、じゃあ舞奈ちゃんと私は仲間だね。一六〇センチいかないフレンズ」