一話まるごと試し読み 町田そのこ『コンビニ兄弟2 テンダネス門司港こがね村店』

【試し読み】町田そのこ『コンビニ兄弟2』

更新

コンビニ兄弟2

コンビニ兄弟2

町田 そのこ

  • ネット書店で購入する

九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その「門司港こがね村店」の名物は、老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦―。個性的な客たちが集う小さなコンビニの心温まる物語、待望のシリーズ第二弾刊行を記念して一話まるごと大公開! 町田そのこさんからの特別メッセージとあわせてご堪能ください。

 ***

 門司港に行けば、彼らがいるんじゃないかな。

 そんな風に思ってくれるひとがいたらいいな。もっと望めば、実際に足を運んでくださればいいな。そんな願いを込めて描いた作品です。
 でもほんとうの願いは、彼らを好きになってくれたらいいな、それだけです。
 どうか、彼らを愛してくれますように!

 ―町田そのこ

 ***

   プロローグ

門司港もじこう、行きたい…」
 大学も休みに入り、アルバイトしているティーン向けの雑貨店も盆休み中。することがなくて家でごろごろごろごろしていたわたしは、ひとをダメにするソファの上で寝そべって独りちた。
「門司港、行きたい…」
 愛車『ピピエンヌ号』を買い、ドライブがてら初めて門司港に行ったのは三ヶ月ほど前のことだ。これまでまったく興味のなかった土地だったけれど、滞在した数時間ですっかり大好きになってしまった。山と海の間に点在するレトロで可愛かわいい建物たち。どこか異国のような路地に、活気ある人びと。美味おいしい食事。
 そして、あのコンビニ。テンダネス門司港こがね村店…。
 あれからさまざまな場所のコンビニに行ったけれど、あの店と同じくらいわたしを夢中にさせるコンビニは存在しなかった。テンダネスの商品はどこでだって買えるけれど、でもあのテンダネス門司港こがね村店にしか置いていない何かがある。それはもしかしたら、あの店長のかもす『色気』なのかもしれない。
『いってらっしゃいませ』
 帰りぎわ、彼から微笑ほほえみと共に送られた言葉が頭から離れない。
「門司港、行きたい…」
 何度目とも知れないつぶやきをこぼしていると、ぱかんと頭をはたかれた。
「痛い! なに!」
 見れば、幼馴染おさななじみ鶴田牧男つるたまきおが仁王立ちしていた。
「うるせえな、さっきから」
「なんだ、マキオか」
「なんだ、じゃねえよ。さっきから玄関先で何度も『こんちわ』って声かけてんのに、誰もいねえじゃねえか」
「あー。いま両親は出かけてる」
「見りゃ分かるわ! そんで和歌わかは寝っ転がって『門司港門司港』繰り返してる。返事くらいしろ」
 ほらこれ母ちゃんから、とマキオは“いきなり団子”が詰まったタッパーをくれる。マキオのお母さんが思い付きで作るいきなり団子は、涙が出るほど美味しいのだった。店がひらけるレベルなのに、趣味で終わらせているのがもったいないくらい。だからすぐにタッパーの中からひとつつかみ、がぶりとんだ。ほどよい甘さのあんとほっくりしたサツマイモが美味しい。皮のむちむちした感じも、相変わらず絶妙だ。
「うう、美味しい。てかマキオ、あんた暇なの」
 大学三年にもなって母親の遣いなんかして、と鼻で笑うと、うわ言繰り返しながら寝転んでたやつに言われたくはねえ、と返された。ごもっとも。
「つか何で門司港なんだよ。門司港ってえーっと、北九州だっけ? お前なんであんなへき地に行きてえの」
 マキオが不思議そうに言い、わたしはかっとする。
「へき地? よく知りもしないくせに、そういう風に言うんじゃねえええええ」
 門司港がどれだけ素晴らしいところだと思ってるのだ! 三ヶ月前のプチ旅で知ったよさをわたしはとくと語り、「とにかく最高なんだよ…」と締めくくった。
「わたしは行きたいのさ、門司港に…」
「行けば?」
「そりゃ行きたいけど! ピピエンヌ号が、ピピエンヌ号が…!」
 二ヶ月前のこと、わたしは愛するピピエンヌ号を我が家の田んぼに落としてしまったのだった。ふんふんと鼻歌を歌いながら家に帰っていたところ、いきなり白猫が飛び出してきてあわててハンドルを切ったのが原因。田んぼの一部もだめになり、ピピエンヌ号の引き上げ代と修理代は恐ろしい額になった。ついでに、白猫は単なるビニール袋の見間違いだった。あ、わたしは無傷である。
 手塩にかけて育てているお米をダメにされた父は激怒し、わたしはピピエンヌ号を取り上げられたのだった。いま、修理から帰って来たピピエンヌ号は納屋なやほこりをかぶっている。
「ピピエンヌ号救出のとき、マキオもいたでしょ!? 行きたくとも行けないんだよ!」
「ふうん。じゃあ、俺が連れてってやろうか」
 ふいに、マキオが言った。
「和歌が気に入ったっていう門司港、どんなところかてみたいし。俺でいいなら、連れて行ってやるよ」