第一話 推しが門司港を熱くする④
【試し読み】大人気シリーズ最新作! 町田そのこ『コンビニ兄弟3』
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ああ、素敵。素敵。それにしても、ラノベ好きではないかというわたしの予想は大当たりだった。まさかゴブ嫁のアルフレッドと店長を重ねるとは思わなかったけど。ていうか、店長ってアルフレッドタイプではないような……。いや、見た目とかナニーズとかはそう言えるかもしれないけど、性格よ、性格。主人公にだけ蠱毒のような愛を注ごうとするアルフレッドと、博愛精神の塊のような店長はむしろ真逆なのよ。
「誰だ、あれ」
目の前にカゴが置かれてはっとする。ツギが立っていた。ふたりを見ながら「ミツの横、見覚えがある気がする」と言う。
「ツギさん! Q-wickっていう男性アイドルユニットの采原或るっすよ」
答えたのは、廣瀬だった。
「なんか、店長を探してきたみたいで」
「ふうん。あ、光莉さん、そっちの弁当温めてくれる?」
「はい。こちらも温めていいですか?」
いかんいかん、仕事仕事。ぶるんと頭を振って、光莉はてきぱきと会計をこなしていく。
「あ、頼んます。あ、太郎。あと、ひと口フライドチキンふたつ貰える?」
ツギはふたり分はありそうな食品を買い込み、イートインスペースに消えていった。
「レジお願いしまっす」
廣瀬のレジにやって来たのは采原だった。カゴにこんもりと品物が入っているのが見えた。
「どの辺りのどのコンビニか分からなかったんで、手当たり次第に探して回ったんですけど、お腹すいちゃって」
にこにこと志波に話しかける采原を、光莉は少し離れたところから眺める。あー、可愛い。しかし廣瀬くん、こういうときでさえ平常心が微塵も揺るがないのはすごいわ……。もはや才能……。
それからすぐに、ふたりはイートインスペースに移動していく。ため息を吐いたところで、「おはよーございます」とウクレレくんこと高木が現れた。
「中尾さん、残業させちゃってすみませんでした。猫、大丈夫でした」
もう上がってもらって大丈夫です、とウクレレくんが言う。光莉は本来十三時が仕事上がりで、入れ替わりでウクレレくんが入るシフトだったのだが、彼の飼い猫のマダムキャメロン――愛称ロンロンの具合が悪くなったから病院に連れて行きたい、と頼まれて彼が来るまで残業していたのだった。
「ロンロン、何だったの?」
「ごはんを全然食べてくれなくて、絶対どこか悪いんだと思ったんですけど、先生が言うにはハンストだと」
「ハンスト?」
「ぼくのミスでいつものカリカリのキャットフードがなくなっちゃってて、二回だけ、とろとろをあげたんです。そのフードを気に入ってしまって、カリカリなんて嫌だって思ったようで」
「ああ、こっちじゃなくてあのご飯をだせ! ってことね」
微笑ましくて、光莉が笑う。廣瀬が「猫缶とか、まじで美味そうな匂いするやつあるもんなあ」と感心したように言うと、「情けないよ」とウクレレくんは眉を下げた。
「ぼくのミスで別の味を覚えさせてしまって、マダムキャメロンを苦しめてしまった。マダムキャメロンの体のことを考えたら、カリカリが一番だから、とろとろフードには変えてあげられないし」
ウクレレくんは、マダムキャメロンにめろめろなのである。
「というわけで、もう大丈夫です。中尾さん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
深々と頭を下げるウクレレくんの手をがっと握って、光莉は「むしろ、ありがとう」と心を込めて言った。
「ほんとうに、ありがとう。今度、ロンロンにとろとろフード、はだめか。ネズミのおもちゃでもプレゼントさせて……!」
ウクレレくんが通常通り出勤していたら光莉の残業もなく、そうなると采原に会えなかったのだ。ロンロンのお陰、と言っていい。
「え? あ、はあ」
ウクレレくんはきょとんとしていたが、廣瀬はにやりと笑い、「これで、行けるじゃないすか」とイートインスペースの方を指した。
「え、えー⁉ 行ったら悪くない?」
「店長じゃなくて、ツギさんの方に行けばいいんすよ。あの量じゃ、もうしばらくは食ってるでしょ」
「廣瀬くん、最高」
ダッシュでスタッフルームに戻り、大急ぎで着替える。普段は殆ど覗かない鏡を前に髪とメイクを直し、ペットボトルの紅茶とプチシューを買ってから、光莉はイートインスペースに飛び込んだ。


