プロローグ【2】

【試し読み】破格のエンタテインメント巨編! 荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』

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 IDチェックを済ませた順に、迎えの車に乗り込んだ。白のランドクルーザーは、ご丁寧にボンネットとドアに〈国際U連合N〉とペイントされている。オスカーの電動車椅子をラゲッジスペースに載せ、助手席にはオスカー、私と心悦、ネイサンの3人が後部座席に座った。運転手は現地採用の警察職員で、マイケルと名乗った。紺の制服に白の腕章、ここにも〈UN〉の文字がある。
「長旅でお疲れでしょう。一旦ホテルに向かいましょうか?」
「ぜひともお願いしたいところだが、あいにくと、すぐに会議があるんだ」
「では、予定通り本部までお送りします」
「よろしく頼むよ」
 オスカーの言葉を受け、マイケルがエンジンを掛ける。ブランブルケイメロミス空港から本部までは30分程度と聞いていた。窓を全開にし、オスカーが煙草に火を点ける。フライトの間ずっと我慢していたのだろう。
「滞在中は私が皆さんの警護を担当します」
「警護って、情勢が不安定というわけじゃないだろう?」
「念のためですよ。何かあっては困ると、事務局長からの指示です。警護の他にも、日常生活でお困りのことがあれば、何なりとお申し付けください」
「じゃあ、一杯付き合ってくれって言ったら来てくれるのか?」
「残念ながら、僕は下戸なんです」
 オスカーの冗談を真に受けたのか、マイケルは申し訳なさそうに言った。
 空港の敷地を出ると、車は地下のトンネルへと入っていく。政府関係者専用。入り口の案内表示は全て英語で書かれている。
「あなた方は極めて優秀な人材だと聞いています」
「ほう、誰がそう言った?」
「誰もが、と言っても言い過ぎにはならないでしょうね」
 オスカーに対しての返答だったが、マイケルの視線はバックミラー越しに私へと向けられていた。
「あなたが来るから解決したも同然だと、本部の人たちが話していました」
「他人任せの職員がいるのは大きな問題ですね」
 私がそう返すと、マイケルはわざとらしく肩をすくめた。
「前のチームは働きぶりが悪く、事務局長からひどく𠮟責されていました」
「我々もそうならない保証はないですよ」
 腕を組み、シートを倒して頭を預ける。マイケルは他人の悪評を共有することで親しくなろうとするタイプのようだった。苦手ではないが、疲れている時に話したい相手ではない。
 国際U連合N抹消E監視S調査団Mは、国際U連合N開発D計画Pに属する事実調査団だったが、今回の派遣から管轄が変更され、組織の枠組みを無視した横割りのタスクフォースへと姿を変えた。〈疫病禍〉以降、事務局のお偉方は組織改革という新たな楽しみを覚えたのだ。そして、現行の第十四次調査団への参加と他のメンバーの選定を命じられた私は、最も信頼できるオスカー・ガルニエをジュネーブから呼び寄せていた。