【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新作『なぞとき』②

【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新作『なぞとき』

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する大人気シリーズ「しゃばけ」! 累計990万部突破の最新作『なぞとき』の刊行を記念して、5日連続で冒頭部分を特別公開いたします。
屈強な佐助が血まみれになってしまい、若だんなも妖も大騒ぎ!! 犯人はいったい誰なの~? 

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「場久が、賭け事をしたいと言い出すなんて、珍しいね。どうしたの?」
 若だんなが笑いながら問うと、場久は身を乗り出し、話し出した。
「実は、切実せつじつな問題が起きまして。寒い季節になってきたので、怪談が得意のあたしに、寄席よせから、お呼びがからなくなったんですよ。今、寄席では戦記ものの語りが、流行なんだそうです」
 やはり怪談は、夏の夜が受けるらしい。屏風のぞきが、片眉かたまゆを引き上げた。
「寄席と、佐助さんの件の賭け、どうつながるんだ?」
「今回の賭け事では、佐助さんの、怪我の事情を突き止めた者が勝者です。勝者は一つ、望みをかなえて貰うという事で、どうでしょう」
 もし場久が正しい答えを突き止めたら、ご褒美ほうびとして、場久の為に寄席を借り切って欲しいと、悪夢を食べる妖は言い出した。
「冬に語る怪談づくしの寄席。そういう引き札を出して、三日間くらい、思う存分ぞんぶん怪談を語りたいんです」
 場久は悪夢を食べるから、身の内に悪い夢がまってゆくらしい。それを語って表へ出し、客達が楽しんでくれることで、また悪夢を食べる力としているのだ。
 若だんなは頷いた後、場久ならまたすぐ、寄席から声が掛かると口にした。
「私は戦記ものより、場久のお話の方が、面白いと思うけどな」
「若だんな、うれしいお言葉ですっ」
 場久は涙ぐんだし、褒美は嬉しいと皆は言ったものの、寄席を借り切るとなると、金がる。さてどうすると皆が顔を見合わせたので、若だんなが笑って、長火鉢にある小引き出しを開けた。
 するとそこには、寝付いたので使う間の無かった先月分の小遣こづかいと、風邪かぜを引いたので表へ行けず、大いに余った先々月分と、饅頭まんじゅうしか買えなかったその前の月分の小遣いが、しっかり入っていた。
「これだけあれば、寄席を借り切ることが、出来ると思うよ。なぁに? ああ小鬼は、お菓子かしをたっくさん買う方が良いんだね」
 それも良いねと若だんなが笑うと、皆がそれぞれの望みを、並べてくる。
「おしろは、三味線しゃみせんのおさらい会を開きたいです。お弟子でしさん達から、開いてくれとせっつかれてますので」
 鈴彦姫は、神社に奉納ほうのうしてある、自分の本体の鈴を、みがいて欲しいと言ってきた。
「鈴がぴかぴかになったら、綺麗きれいになったと、若だんながめて下さると思います」
「ひゃひゃっ、この金次は、三、四人、貧乏にしてもいい、大店の店主を紹介して欲しいね。あん? そういうのは、金で何とか出来ないから困るって? そういうもんなのかい?」
「きゅい、団子だんご、お饅頭、加須かす底羅ていら羊羹ようかん、辛あられ、金平糖こんぺいとう
 一番困った様子なのは、屏風のぞきであった。
「みんな、どうして直ぐに、望みがでてくるんだい? 参ったな。あたしは三日くらい、この離れで寝ていたいかな。そいつは駄目だめなのか? いつも、やってるだろうって?」