通り魔事件を起こした27歳男性を描いたサイコ・サスペンス 執筆の背景を小説家の望月諒子が語る

シリーズ累計45万部突破! 望月諒子『踊る男』刊行記念特集

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「『愛』を受けたことがない人は、井守のように凶行に走るかもしれない」。小説家の望月諒子さんは、新作『踊る男』の主人公・井守拓実をそう評しています。

同書は、累計45万部を超える木部美智子シリーズの最新作。27歳になった井守は、いじめの記憶から逃げるように、同級生をターゲットに、Xの中傷投稿や通り魔事件を繰り返します。その相手は「自分をいじめなかった同級生」。フリージャーナリストの木部美智子は、無関係とも見える複数の事件の被害者が、ある中学校の同級生であることに気付き、犯人が井守であることを確信します。なぜ彼は、「自分をいじめなかった」人を標的にしたのか——。

望月さん自身に、物語に込めた問いを聞きました。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

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踊る男

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 ——本作『踊る男』は、木部美智子シリーズの第7弾にあたります。シリーズ全体の中で、本作をどのように位置づけていますか。

 これまでの木部美智子シリーズは、振り返ってみると、少し設定が複雑な作品が多かったように思います。読者の方も、頭を疲れさせながら読み進めなければならない作品が続いていました。

 ですから、今回はシリーズの中で楽に読める一冊にしたいと思いました。登場人物をできるだけ絞り込み、その人たちの内面と、彼らを取り巻く状況だけを舞台にした、「小さな小説」を書いたつもりです。

 シリーズものではありますが、過去作との直接的なつながりはほとんどありません。『踊る男』一冊でも完結して楽しめる構成にしていますので、気軽に手に取っていただけたら嬉しいです。

  ——本書では、主人公の井守拓実が中学時代に自分を「いじめなかった」同級生を標的に、Xの中傷投稿や通り魔事件を起こしていきます。読者としてまず戸惑うのは、彼が自分を「いじめた」同級生ではなく、受け入れようとしてくれた人たちに刃を向けた点でした。
 
 井守は、自分が「いじめられた」という事実と向き合いたくない。ただ、逃げたい一心です。だから、「自分をいじめた人はいなかった」ことにしています。

 すると「いじめもしないし、上下関係もつけない、そういう高尚な人たちの中に自分はいるはずだ」という妄想に取りつかれてしまう。この妄想は、彼にとってとても居心地のいいものです。

 けれども、その輪の中に自分を置こうとした瞬間、井守の前に壁が立ちはばかります。彼らの記憶の中には、惨めにいじめられていた自分がいる。その事実が、井守の妄想を拒みます。

 だから、彼らの中にある「惨めな井守」を消さないといけない。いじめられた事実を消すためには、彼らの記憶を消せばいい。そういう発想の飛躍が起きてしまうんです。

  ——理想の自分とそれを受け入れてくれる理想の世界を追い求め、空回りを続ける井守拓実のキャラクターには、なんとも言えない不気味さや嫌悪感をおぼえました。その一方で、「自分の中にもそういう面がある」ということを認識させられ、居心地の悪さを感じることがありました。

 今の学校教育は、「他者を思いやる」という風潮が強すぎるがゆえに、感情を押し殺すこと、言いたいことを我慢することを良しとしているように感じます。率直な感情を吐き出す機会がないまま、大人になってしまう。

 人間関係を構築できなかった井守もそうです。中学時代の不安や鬱屈を内側に抱えたまま大人になり、些細なきっかけでそれが噴き出してしまう。

 本来、人は感情的にぶつかり合いながら成長していきますが、現代はその機会が奪われている。だから、井守のように凶行に走らずとも、彼の思考が多少理解できてしまう人がいるのだと思います。