シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み②

累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 

最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を本日から特別公開いたします。

最近の異変はすべて狐のせい―。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が…。

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おにがわらう

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 若だんなは、とてもせわしない性分しょうぶんだと、兄や達から言われる事がある。病の後など、ゆっくりしていればよいのに、妙に働きたがるからだ。
 今回もやはり病後であったが、若だんなは頑張った。人の知り合いや妖達に、狐の噂話を教えて欲しいと、沢山文を出したのだ。
 良き返事が来た時の為、若だんなは急ぎ金子きんすや礼の品を用意した。妖達の為には胡瓜きゅうりや酒、鰹節かつおぶし、お菓子なども揃えておく。離れには化け狐と守狐もりぎつねも、当然揃う事になった。
 するとだ。知り合い達は早々に、長崎屋へ、狐について語りに来た。御坊ごぼうや、店出入りの顔馴染かおなじみだけでなく、お役人までが顔を見せたのだ。
 長崎屋の離れへ、一に顔を出してきたのは、世には高僧こうそうとして知られている、広徳寺こうとくじ寛朝かんちょうであった。長崎屋の妖らは顔馴染みだから、寛朝が来ると、離れには大勢が顔を揃える。小鬼達もわらわらと多く現れ、寛朝の膝に乗って遊びだした。
「若だんな、狐の噂が気になるそうだな。うむ、正直に言うと、若だんなが何故今更、狐のことを問うのかと驚いた。だが確かに今、化け狐の噂話は多いようだ」
「きゅべ?」
 寛朝は妖を見ることも、はらうことも出来る御方で、長崎屋の妖達だけでなく、多くの怪異と縁が深い。よって、寺内にも聞こえてきた狐の噂話を、気にしていたという。
「実はな。最初に狐の話を広徳寺へ伝えたのは、当寺の檀家だんかだ。少し前の話だ」
 檀家は江戸で、狐が祟る場所があると、考えていたらしい。その場所として上野の山とか、神田の武家地があるようだが、広徳寺は大丈夫なのかと、寛朝へ正面から問うたのだ。
 寛朝は大真面目な顔で、自分は上野の広徳寺にずっと住んでいるが、まだ狐にめられたことはないと返したらしい。
「その檀家は明るく笑って、早々に帰った。しかしその後も、やたらと狐の話が、寺へ持ち込まれてきてな」
 小雨の日に突然日が照ったが、狐の嫁入りではないかと、天を気にしていた者がいた。何故だか今更、狐の噂話を怖がっているのだ。
「狐が嫁入よめいりしても良かろうと言ったら、心配していた男は、びっくりしておった」
 夜、遠くに火を見たが、あれは狐火ではないかと、知らせてきた者もいた。
「火事でなくて幸いだったと告げたところ、狐の方が怖くありませんかと、大真面目に言ってきたわ」
 実害があったわけではないが、他にも狐の話が寺へみ、れない。寛朝は一度長崎屋へ来て、店にくっている守狐達と、話そうと思っていたらしい。
「だが長崎屋の若だんなが、率先そっせんして狐の噂を調べてくれるなら、ありがたい。店に化け狐が巣くっておるから、色々分かる事もあろう。わしも忙しいゆえ、後はよろしく頼む」
「おや、御坊は若だんなに、狐の噂話を、丸投げになさるおつもりですか」
 離れで、茶をれていた仁吉が睨んだが、高僧は歯牙しがにもかけない。
「怒るでない。なに、寺で分かった事があったら、長崎屋へ知らせるゆえ」
 自分は慈悲深じひぶかい僧だからと、寛朝は堂々と付け加える。
 若だんなは笑って、ご足労そくろう頂いたお礼にと、金子の包みを差し出した。寛朝は、きちんと礼を言った後、遠慮なく金を懐に収めた。
「寛朝様の他にも、多くの御仁が、狐の噂について知らせを入れてくれる約束です」
 仁吉が、噂は後で文を送ると言ってから、いつも伴っている弟子でし秋英しゅうえいに届けて良いかと寛朝に問うた。今日、高僧は見慣れぬお供を連れてきており、妖に慣れていないのか、寛朝の指示で、他の部屋で待っているのだ。
「秋英さんには、他の用でも入ったのでございましょうか」
 広徳寺は、妖封じで有名な大寺だが、実のところ、封じられるのは寛朝と、その弟子秋英のみであった。寛朝に用があるときは、秋英が引き受けるしかない。
 すると寛朝が、思わぬ事を言ってきた。
「今朝は早めに寺を出て、長崎屋へ来ることになっておった。秋英も連れて出るつもりだったが、出かける刻限近くになって、急に他から呼ばれてな」
 小坊主たちに問うたが、誰に呼ばれたのか、はっきりしない。急な用でも言いつけられたのだろうと、寛朝は他の従者を連れ表へ出たのだ。
 若だんなは笑うと、また一緒においで下さいと、柔らかく伝えた。
 寛朝が席を立ち、仁吉が表へ送って行くと、妖達が一斉に話し始める。今日は町娘の格好かっこうをしている鈴彦姫すずひこが、そっと首を傾げた。
「あの、寛朝様のお話で、一つ気になったんですけど。寛朝様って、結構偉いお坊様ですよね?」
 その僧に向け、広徳寺は大丈夫なのかと、正面から問うたり、答えを聞き笑ったり、随分気ままに振る舞う檀家がいたようなのだ。
「大きな寺の檀家さんて、そういうものなんでしょうか。私の本体、鈴が納められている神社の氏子うじこさんは、神主さんに、丁寧に接しておいでですが」
 若だんなは、きちんと答えた。
「広徳寺は大きな寺だ。檀家も多いだろうから、中には変わった御仁もいるんだろう。それに寄進きしんが多い相手だと、多少の無礼があっても、寛朝様は怒らない気がするな」
「きゅいきゅい」
 妖達が笑った所に、新たな菓子を手にした仁吉が戻ってくる。そして、次の客がもう木戸の所にきている事を、若だんなへ告げてきた。