シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み③

累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 

最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を本日から特別公開いたします。

最近の異変はすべて狐のせい―。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が…。

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おにがわらう

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 筒井は、長崎屋の店表にはよく顔を見せる、定廻じょうまわ同心どうしんだ。北町奉行所ぶぎょうしょの者で、まだ若いからか、店の者にも気軽に話をしてくれる、気さくなお人であった。
「おう、若だんな。うちの中間ちゅうげんが言ってたんだ。長崎屋の若だんなは、狐の噂を聞きたがってるんだって?」
 ならば知っている話をしようと、筒井はわざわざ、離れへ来てくれたらしい。ただ、同心である筒井は、部屋内に座った後、日限の親分のように、あっさり噂を語ったりしなかった。
「ところで、大店の息子が、どうして狐の噂話を聞きたいのだ?」
 正面から聞かれたので、向かいに座った若だんなは、よどみなく返答をした。
「実は先に、近くの小さな稲荷神社で、お狐様の像を、殴った者がいたそうで」
 神使は壊れなかったが、ほこら宮に置かれた狐の像を殴るのは、罰当たりな事であった。長崎屋の面々は、顔をしかめているのだ。
「それで、誰がやったことか、聞いてみたんです。そうしたら」
 殴った者は分からなかった上、狐について良くない噂話が、江戸で広まっている事を、若だんなは知ったのだ。
「気になりましてね。狐が、どう言われているのか、知りたくなったんです」
「なるほど、そうであったか。ちなみに、どこの神使が殴られたのだ? おお、一軒家近くにある、小さな稲荷神社前の像か」
 筒井は頷くと、ようやく、ささやかれていたという、狐の噂を語り出した。
「もし狐火を見たなら、急ぎ手で遠めがねの形を作り、それを通し火を見るべし。そうすれば、知りたい事の真相が分かるという話を、誰かが通町の寄席よせで話したという」
 この話に興味を持つ者は多かったと、筒井は笑っている。皆は遠めがねを通し、狐火ではなく、富くじの当たり札の数字を、知りたがっていたのだ。綺麗な娘っこの心の内に、興味がある者もいた。
煙草たばこは狐の敵、という話も聞いたな」
「へっ、世の狐は、煙草をのまないんですか」
 長崎屋の化け狐達は、大して煙草をたしなまないが、格好付けて煙管きせるかまえることは好きだから、赤月が頓狂とんきょうな声を出した。離れの隅にいた守狐は、人とは思えない問いをした、赤月の頭をはたく。
 だが、まさか相手が狐とは思わなかったのだろう、筒井が大きく笑った。
「ははっ、面白い事を言うな。花見の時にでも、煙管を手にした狐に会った事があるのか」
「いえ、そういう知り合いは、いないですが」
 筒井は縁側から立ち上がると、また何か聞いたら、長崎屋へ寄った時に話そうと言う。
 仁吉が供の中間へ甘いものなど渡し、店から挨拶に来た番頭ばんとうが、紙に包んだ金子を袖に落とすと、同心は姿を消して行った。
「おひねりを貰うのに、慣れてますね」
 はたかれた赤月が口を歪めて言うと、守狐が、今度は耳を引っ張った。
「暇なお武家もいるが、奉行所の皆様は暇じゃない。少ない人数で、百万もいるお江戸の者達の為に、働いてるんだぞ。普段の見回りから、お白洲しらすでのさばき、悪者を捕まえる事まで、多くを押しつけられてる」
 しかも俸禄ぼうろくは安い。同心なら三十俵二人扶持びょうににんぶちで、先々上がる見込みもない。自分なら、そんな禄であんなに忙しいつとめをするのはごめんだと、守狐が言い切った。
 そして、俸禄の安い同心に使われている、岡っ引きや手下達の実入りは、察することが出来るほど僅かなのだ。
「だから、お店が出すおひねりの金は、安い金で働いてる、中間や岡っ引きやその手下に流れていく。ありゃ必要な金なんだよ」
 まあ三廻りの同心は、お店などから余禄が入るから、従っている中間も、貰う金が他よりは多いとの噂だ。奉行所に関わる者達は、出世にはまず縁がないが、内職が欠かせないような武家達よりは、余裕がありそうだった。
八丁堀はっちょうぼりの旦那も、そのお供の中間も、よく長崎屋へ来るんだ。それくらい覚えておきな。でないと、妙な事を言いかねねえ」