シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み④

累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 

最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を特別公開いたします。

最近の異変はすべて狐のせい―。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が…。

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おにがわらう

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「同心の旦那が、噂と関わってるんですか?」
「いや、旦那自身じゃなくてね。縁があるかもと思ったのは、お武家身分の方なんだ」
 江戸に幕府ばくふが作られてから、この武蔵むさしの地は特別な場所になった。日の本中から参勤交代さんきんこうたいの武家達が、江戸を目指して来るのだ。
「九州からも北の地からも、お武家は江戸へ来る。従者や荷物持ちまで入れたら、結構な人数が江戸に、しばし移り住むんだ」
 大名だいみょう同道どうどうしてきた家臣かしん達は、他藩たはんの者と話す事もあるだろうし、湯屋の二階や習い事などを通じて、江戸の町人達とも関わる。そんな中、他国の武家が知っていた各地の噂話は、江戸で広がっていったのだろう。
 場久が大きく頷いた。
「それに違いありません。ああ、すっきりした。知らない噂がどこから来たのか、はっきりしましたね」
 そういえば噂は武家地と、人が多く集まる繁華はんがな町人地で多く聞くと、河童達が言っていた。どちらも、遠い地から来た武家達が、顔を出す所であった。
 ところがだ。貧乏神が、ひゃひゃひゃと笑うと、若だんなの顔をのぞき込んできた。
「参勤交代を思いついたのは、凄いと思うよ。さすがは若だんなだ。だけどね、ひゃひゃっ、何か足りなくないかい」
 他国から江戸へ人が集まると、沢山の噂話が集まるのは分かる。だが。
「集まった話が、狐の噂ばかりになる理由は分からない。なんで武家が集まると、狐の話になるんだ?」
 この問いに、若だんなは困ってしまった。妖達は、あっという間に空になったねぎま鍋を見つつ、話を何とか続けようと頑張り出した。
「ええと、それはですね…我は狐です。答えを考えつきました」
 守狐は、噂が狐の事ばかりになるのは、お国自慢じまんが関わっているのではないかと言った。
余所よそから江戸に集まった者達が、おのれが国の噂話を語るのは、半分自慢話のようなものかと思います」
 己の国にはこんな、人知を超えた話があるのだぞと言い、聞いた者から、それは凄いと言われる事を好むわけだ。大いに受けると、話は湯屋や茶屋などから、噂となって江戸中に広がっていく。
 その話が、本の作者に認められれば、各地の話を記した一冊となって、地本問屋じほんどんやから売り出されるかもしれない。噂話の大出世であった。
「そうなるとですね、噂を語る者は、地味な話を避けそうです」
 どこにあるのか分からないとうげを通ると、怖い声が聞こえるとか言われても、聞く方には縁のない場所だから、興味が薄い。
 変わったけものが遠い地にいると聞いても、姿を思い描けず、本当かなと思ってしまいそうだった。
「ですが、狐の噂話は違います。狐は日の本中にいて、なじみ深い者です。しかも化けるし、騙すとも言われているし、要するに大物なのです」
 そういう噂なら、離れた地の話でも、自分の身近で起きた事のように感じられるのだ。龍や鬼と違って、多くの者が、狐の姿が分かる。良く知るが為した、けたはずれな怪事かいじに、興味を引かれるのだ。
 守狐は、空になった椀を前に、うっとりと言葉をむすんだ。
「完璧です。これこそ、今回の噂の真相です。ね、若だんな、若だんなもそう思われるでしょう?」
 すると若だんなより先に、守狐へ文句を言った者が現れた。妖達の残り飯に、鍋のつゆを掛けてやっている、猫又のおしろだ。
「あの、猫だって、人と近しい獣です。なんで狐だけ、噂になったというんですか?」
「おしろさん、それは多分、たまたまですよ」
「たまたま?」
「最初に噂を流した人の故郷で、狐の噂があったからでしょう。その地で、猫又の話があれば、そちらの噂が広まったと思います」
「ああ、そういう事なんですね」
 おしろが納得した顔になったので、狐の噂話は、この辺りで一段落した。
「後は、広徳寺や筒井様へ、事情を書いた文を出せば、事は終わるでしょう。寛朝様への文は、秋英さん宛で良かったのですよね」
 すると小鬼が直ぐ、広徳寺へ使いに行くと言ったのは、ご褒美の菓子が目当てなのかもしれない。若だんなは笑って、明日、文をお願いするねと、小鬼の頭を撫でた。