シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み⑤

累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ! 

最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を特別公開いたします。

最近の異変はすべて狐のせい―。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が…。

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おにがわらう

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 三日後、寛朝は寝付いている弟子へ目を落とすと、大きく息を吐いた。
「仁吉さん、投薬の賭けに勝ったと、言ってくれるか。ありがとう。本当にほっとしたぞ」
 若だんなと仁吉、それに屛風のぞきは、着いた日から三日、直歳寮へ泊まり込んだ。すると三日の間に、直歳寮には妖達が増えていた。
「若だんなと仁吉さんが、広徳寺から薬を求められ、急ぎ寺へ行ったと聞いて、旦那様達が心配してさ。あたしを使いとして、寺に寄越したんだよ」
 そう話したのは、長崎屋の廻船かいせん問屋で奉公人ほうこうにんとして働いている、貧乏神の金次だ。
「主が寺へ行って良いと言ったんだ。あたしは若だんなが帰るまで、この寺にいることにするよ。ああ、それと」
 金次は若だんなの父である主の藤兵衛とうべえから、見舞いの金を持たされてきたのだ。更に、何故だか同じ舟で、妖達を連れてきていた。
「だってさ、勝手に舟へ乗ってきたんだから、しょうがないだろ」
 金次の横で頷いたのは、河童の杉戸だ。禰々子河童の一の子分は、親分から、河童の薬を預かってきていた。
「お三方が、若だんなの為の薬を持って、広徳寺へ向かったと聞いたんで。ですが、若だんなが飲む薬だと、人にはきつすぎないですか。河童の薬に変えましょう」
 仁吉が頷いたので、若だんなはほっとする。他にも来ている者がいて、直歳寮で寝付いている秋英の周りは賑やかになっていた。
 秋英当人はまだ寝付いたままで、あれこれ語れる容体ではない。高僧寛朝の、唯一の弟子である秋英が、なぜ斬られたのか。分かっていない事が多く、長崎屋へ一報も入らないものだから、妖達は上野に押しかけてきたのだ。
「だって、だって。禰々子親分さんに薬を頂いたんだから、秋英さんが怪我をした事情を、河童の方々に説明しないといけないんです。秋英さんの具合が悪いんだから、しばらく待てって? 分かってますけど…気が焦ってしまって」
 鈴彦姫は、広徳寺に着くと早々に、秋英の看病を始め、付き添っていた。すると次に、悪夢を喰らう獏で、今は噺家はなしかになっている場久が、何やら怖いことを口にした。
「あのですね、あたしが広徳寺へ来たのは、知り合いの見世物小屋みせものごやで、怖い話を耳にしたからなんです」
 場久は噺家だから、よく通る声で、まるで物語のように語り始めた。
「寄席の常連客によると、少し前から、両国の盛り場で、聞き込みをしている若者がいるってことです」
 その若い男は一人ではなく、皆、同じ事を聞いて回るので、盛り場で目立っていたのだ。若者達は似顔絵を持って、行方知れずの男を捜していた。ただ彼らは、捜している男の名を知らなかった。
 しかし両国の盛り場は、やってくる者も去る者も多い。江戸で最も、人捜しがしづらい場所の一つに違いないのだ。だから名も分からないのでは、人捜しは無理だと、皆から言われていたという。
 ところが。
「何と、人が山のようにいるお江戸で、人捜しが上手くいったんですよ。若者達は、行方知れずの男を知ってる者に、巡り合った」
 捜し当てた理由は、意外なものだった。
「行方知れず男の、着物の柄です。薄い灰色の地に、太さの違うしまが沢山入っている勝手縞だった。その柄を、若い者達はきちんと紙に写して、皆に見せてたんです」
 すると広い盛り場の中で、捜している男が着ていた着物を、覚えている者と会えたのだ。
「確かに勝手縞は、細縞などより、着物ごとに縞が違っていて覚えやすいですよね。運が良かった」
 着物の柄を覚えていた男は、見世物小屋の呼び込みで、勝手縞男は、たまに小屋へ来ていた客らしい。つまり呼び込みと、さほど親しい間柄あいだがらではない。何日か顔を見ていないが、今どこにいるかも分からない。名も呼び名しか知らなかった。呼び込みは男を、たつさんと呼んでいた。
 人捜しが、もっと詳しく知ろうとすると、呼び込みは、何故たつの事を聞くのかと、反対に問うたそうだ。すると若い男は声をひそめ、呼び込み達に告げた。
 語る場久の声もぐっと低くなる。
「勝手縞のたつさんは、神田で亡くなってたんですよ。殺されてた。両国の人たちは、そう言われた途端、腰が引けたって話です」