シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み⑥
累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集
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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ!
最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を特別公開いたします。
最近の異変はすべて狐のせい――。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が……。
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小さな豆腐屋の次男で、家の商いや、武家や寺の手伝いをして稼いではいたが、それでは立場が定まらない。しかも竜次は、旗本屋敷の武家から雑に扱われていたようで、両国の盛り場へ行き仕事を見つけたいとこぼしていたようだ。
よって家から突然いなくなった時も、親は、竜次が揉めている武家から離れ、両国に行ったものと考えていたらしい。
「竜次が家を出た後、狐が人を騙すとか、化かされ殺されるとか、怖い噂が流れた。二親は、竜次が既に亡くなっていた頃、息子が狐と出くわさないよう、祈っていたのだ」
まさか、斬られて亡くなっていたとは思わなかったと、親は嘆いたという。
寛朝は、ため息を漏らした。死んだ竜次は、恐れていた狐に、亡骸を見つけて貰ったのだ。しかし親は葬式で、息子は狐に殺されたのだろうと言ったらしい。
「やるせない話だ」
寛朝の言葉を聞き、若だんなが、床で寝ている秋英を見た。若だんなはここで、狐の噂よりも恐ろしいのは、武家だろうと言った。
「若だんな、何故武家なのだ?」
「寛朝様、竜次さんも秋英さんと同じく、首から斬り下げられていました。あれは、化け狐がやったことではありません」
もし本気で戦ったとしても、狐の牙や爪では、あんな傷跡は出来ないのだ。
昨今、町にある道場へ通う町人もいるが、たとえ腕が立っても、武家でなくては腰に刀を差せない。羽振りが良い者は町人に多いとはいえ、今も日の本の身分差は大きかった。
そして、町人が持つ事を許された短いどすでは、秋英の背にあるような、首から足に至る傷を作るのは、無理かと思われた。
寛朝の声が苦々しい。
「秋英は、武家の刀で斬られたのか。だが、何故だ?」
竜次は神田の武家で、下働きをしていたから、武家とも縁があった。武家の下働きを嫌っていた様子もある。だが秋英は神田とも武家とも、ほぼ付き合いがない。上野と神田は場所こそ近いが、神田川で隔てられていた。
「秋英は竜次に関わったが、死体を見つけた者から、話を聞いただけだ。なぜ斬られねばならんのだろう」
若だんなは布団の脇で眉尻を下げた後、問うてみる。
「寛朝様、かなり前の話でもいいんです。秋英さんが、お武家と揉めた事がありますか?」
「いや、そのような話は覚えておらん。そもそも広徳寺で秋英は、武家と関わる事が、まずないのだ」
広徳寺で武家を受け持っているのは、若だんなも以前会った事がある、延真達だという。
「人付き合いの上手い、年が上の僧達だ」
寛朝と秋英は、広徳寺でもっぱら怪異を担当している。よって寺が武家と揉めたとしても、秋英が斬られるとは考えにくいという。
「秋英は、直に竜次と会った事もないはず。誰に斬られたというのか」
すると、堂宇で薬をこしらえていた仁吉が、振り向き、不意に言った。秋英の容体が良くなり、話せるようになっても、もしかしたら、斬られた事情は分からないかもしれない。当人すら知らない事情で、初めて会った者に斬られたという事も、あり得るのだ。
「私は長く生きてきましたので。そういう理不尽を、幾つも目にしてきました」
ここで、帰らず広徳寺に居続けている貧乏神が、口を挟んできた。
「あのさ、寛朝様は、前に言ってたよねえ。最初に狐の話を広徳寺へ伝えたのは、檀家だって。その檀家は狐の噂を気にしてた。そして江戸で、狐がよく人を騙す場所があるようだと考えた」
金次は、その場所だと檀家が言ったのが、神田の武家地や上野だった事を覚えていた。
「その檀家さんさぁ、広徳寺は大丈夫なのかって、寛朝様へ正面から問うたんだよね。寛朝様の大真面目な答えを聞いて、笑って帰ったという話も聞いた」
「おや、金次は物覚えが良いのぅ」
感心する寛朝へ、金次は件の檀家のように、正面から斬り込んだ。








