シリーズ累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』所収「てあそび」試し読み⑦
累計1000万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『おにがわらう』刊行記念特集
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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する、累計1000万部突破の「しゃばけ」シリーズ!
最新刊『おにがわらう』の刊行を記念して、「てあそび」を特別公開いたします。
最近の異変はすべて狐のせい――。
妙な噂が流れ、己まで人に襲われたと化け狐の赤月が若だんなに訴えてきた。その上寛朝の弟子・秋英は大怪我を負い、武家屋敷の下男が死体で発見された。若だんなと妖達にある疑念が生まれた矢先、新たな訪問者が……。
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7
秋英の容体が少し良くなり、河童の薬も効いていたので、若だんな達は一旦長崎屋へ帰った。
父の藤兵衛へ、寛朝から言付かった礼状を渡し、離れに戻ると、妖達もいつもの暮らしに戻っていく。兄やと金次、屛風のぞきも、長崎屋の店で働き始めた。
ただ戻って以降、夜になると長崎屋の離れには、多くの妖達が集っていた。そして若だんなと一緒に、今回竜次が亡くなり、秋英が死にかけた件は、どういう話だったのか、皆で考えていたのだ。
たとえ証がなくとも、明日、別の災いが起こるのを避ける為、答えを知らなくてはならない。屛風のぞきがさらりと言った。
「何故って、秋英さんは、亡くなっていないからね。養生して元気になって、その内、寺の外へも出るんだ」
その時、秋英がまた狙われてはいけないのだ。若だんな達はまず、最初の出来事、狐の噂が広がり、化け狐の赤月が殴られた件から、考え始めた。
「赤月が狙われたのは、狐の噂が江戸で広まったからだよね」
そして狐の噂がまだ通町へ聞こえていなかった頃、竜次は死んでいた。遺体が埋められていたのは、神田にある小さな林だ。
ここで金次が、事を物語のように紡ぎ始めた。
「ひゃひゃっ、竜次さんが殺されたのは、突然の出来事だったんじゃないかな。お武家の一人が怒りにまかせて刀を抜いちまった」
そして斬り殺してしまってから、己のやった事に慌てたのだ。遠くまで遺体を運ぶ事も出来ず、人殺しは竜次を手近な林に埋めた。
「神田にある林なら、小さいだろうね」
他の屋敷が多くある場所であった。林とはいえ、いつ人が通りかかるか分からない場所なのだ。ゆえに。
「人を埋める穴も、深くは掘れなかったかな」
後であっさり死体が見つかっているから、事の始末がいい加減だったに違いない。人殺しは、屋敷に帰っても不安に包まれ、その不安を和らげてくれる何かを求めたのだ。
ここで守狐が、話を継いだ。
「人殺しは竜次の死を、昔から剣呑な噂がある、狐の仕業にしようと決めたのでしょう。時が経ち、遺体が骨と化してしまえば、後は殺されたか自死かも分からなくなる。とにかくしばしの間、狐に罪を押っつける為、恐ろしき狐の噂を撒いたわけだ」
離れに集った皆が、黙って頷いた。
ただ狐の噂を流そうとしても、いきなり沢山の剣呑な話を、思いつけない。それで人殺しは参勤交代で来た、他国者の話を集めると、都合良く変え、己の為の噂としたのだ。
「北から南から、多くの者達が、江戸へ来ています。狐の噂話も、様々なものがあったんでしょう」
場久が口元を歪めた。
「湯屋の二階とか居酒屋、寄席など、話をばら撒きやすい場所は、多くあります」
それで長崎屋の近くにまで、狐の恐ろしい噂話が伝わってきたのだ。
狐は以前より、悪しき者のように思われ、赤月が人から追い回された。赤月が化けた神使の狐像にまで殴りかかった者が現れた。狐にとっても今回の件は、大いなる災難となったわけだ。
屛風のぞきが、眉尻を下げる。
「ああ、神田にいた人殺しが、狐の怖い噂を広めたんで、噂話が流れた場所に、偏りがあったんだね」
人を殺めた武家のいる城の北側と、よみうりなどが出やすい繁華な町人地に、狐の噂が多くあった。人殺しは、死体から目を逸らすべく、場所を選んで噂を広めたからに違いない。
今度はおしろが、茶を淹れつつ、以前の疑問について口にした。
「あの、前に、同心の筒井様が何で離れに来たのか、皆、首を傾げてましたでしょ?」
筒井が離れに顔を見せる事は、珍しかった。
「筒井様はもしかして、狐の噂を誰が流したのか、ご存じだったのかも知れませんね」
神田で、殺された町人の死体が見つかったら、同心は調べただろう。ただ、その傷から武家の関わりを思いついたとしたら、筒井は困ったに違いない。町奉行所は、町人達を取りしまるのが務めであった。武家の罪を裁くのは、他の者の役目だ。
「ああ、話が見えてきた。けど困ったね」
若だんなが、息を吐く。
「大身旗本の家臣が、人殺しだったとして。この先、どうしたらいいんだろう」
町奉行所へ出せる証がない。そしてもう一つ、疑問が残っていた。
「秋英さんは、どうして斬られたんだろうか」
化け狐から話を聞いただけでは、斬られたりはしないだろう。何か、知られてはならないことを聞いたと思われたのだろうか。
「そういう事だろうと察しはつくよね。けど、その考えも憶測なんだ」
そして一番の悩みは、この先どうやって、秋英を護ろうかという事だった。
「一番大事な事だ。けどそのやり方を、まだ思いつかないんだ」
しばし離れが静まって、なかなか良い考えが出なかった。だがその内、ある化け狐がすっと顔を上げたのだ。
「あ、こういうやり方は、どうでしょうか。存外うまくいくような……」
だがこの時化け狐は、急に口を閉じてしまった。そして、この場へ出すような思いつきではなかったと言い、黙ってしまったのだ。
その後も、良き解決の仕方を考えつく者はいなかった。案を思いついたら、いつでもいいから知らせて欲しいと若だんなが言い、離れの話し合いは終わった。そして終わらない悩みを抱えたまま、日々は進んでいったのだ。








