【試し読み】恋愛小説の名手・唯川恵による修羅場の恋愛学『男と女』①

恋愛小説の名手・唯川恵による令和を生き抜く修羅場の恋愛学 『男と女』(新潮新書)特集

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他人の男を奪い続けて20年、何不自由ないのにPTA不倫、経済力重視で三度離婚…。『男と女―恋愛の落とし前―』は恋愛小説の名手である直木賞作家・唯川恵さんが、36歳から74歳まで12人の女性の実話を元に執筆した初の新書です。
「不倫はすることより、バレてからが本番」「大人の恋には大人の事情があり、責任がある」「恋愛は、成功と失敗があるんじゃない。成功と教訓があるだけだ」などの珠玉の名言で、多様な恋愛を厳しく一刀両断。冷徹さの中にも愛が潜む唯川さんの言葉は、人知れず悩みを抱えている大人の心に突き刺さります。
恋愛だけではなく、人生を生き抜くヒントに溢れた、令和の新バイブルから、
「はじめに」と「「第3話 恋愛関係の基本は人間関係である──仕事はできるが恋には幼稚な40歳」を期間限定で試し読み公開します。

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はじめに  

 長く小説やエッセイを書いて来た。主人公のほとんどは女性で、仕事や友人、家族関係、生きがいややりがい、悩みや孤独感などを絡めて来たが、その中でも、やはり恋愛は大きな比重を占めていた。
 別に恋愛がなくても生きていくことはできる。けれど、人は誰かを想う気持ちを抑えることができない生き物である。人生から切り離せない。
 なぜ人は恋をしてしまうのか。
 そんなシンプルな疑問から始まって、恋愛についてそれなりに考えてきたつもりだったが、正直なところ、答えは見つけられないままである。わかったのは、答えなどない、というもっともな結論だけだ。
 だからというわけではないが、ここ数年、恋愛というテーマから遠ざかっていた。
今更、恋愛を描く必要などないのではないか。すでに語り尽くされている感もあるし、何より世の中はあまりに複雑になっていて、興味を持つどころか、辟易している方も多いのではないかとの思いもあった。
 そんな時、ある女性と話す機会を持った。
 その女性とは、彼女がまだ20代の頃に出会っている。いい大学を出て、希望の会社に就職して、仕事もばりばりやって、恋もたくさんしていた。毎日を実に楽しんでいた。だから、もしかしたら彼女はもう結婚する気がないのかもしれないと思っていた。
ところが、彼女は30歳を過ぎて間もなく、短い交際期間であっさり結婚を決めた。
 幸せそうな様子の彼女に、意地悪な私はついこんな質問をしてしまった。