【試し読み】恋愛小説の名手・唯川恵による修羅場の恋愛学『男と女』②

恋愛小説の名手・唯川恵による令和を生き抜く修羅場の恋愛学 『男と女』(新潮新書)特集

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他人の男を奪い続けて20年、何不自由ないのにPTA不倫、経済力重視で三度離婚…。『男と女―恋愛の落とし前―』は恋愛小説の名手である直木賞作家・唯川恵さんが、36歳から74歳まで12人の女性の実話を元に執筆した初の新書です。
「不倫はすることより、バレてからが本番」「大人の恋には大人の事情があり、責任がある」「恋愛は、成功と失敗があるんじゃない。成功と教訓があるだけだ」などの珠玉の名言で、多様な恋愛を厳しく一刀両断。冷徹さの中にも愛が潜む唯川さんの言葉は、人知れず悩みを抱えている大人の心に突き刺さります。
恋愛だけではなく、人生を生き抜くヒントに溢れた、令和の新バイブルから、「はじめに」と
「第3話 恋愛関係の基本は人間関係である──仕事はできるが恋には幼稚な40歳」を期間限定で試し読み公開します。

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第3話 恋愛関係の基本は人間関係である ──仕事はできるが恋には幼稚な40歳

「すみません、私、スパークリングワインを頼んでもいいですか」
ちなみに今は、平日の午後4時。呑み始めるにはいささか早い時間だが、IT企業でマーケティング職についているという友香さん(40歳)は、9時5時という勤務体系ではないらしく、今日の分の仕事はすでに終わっているという。
 もちろん、こちらとしては何の問題もない。私もビールをいただこう。
 彼女は目鼻立ちの整った華やかな美人だ。スレンダーな体型で、細身のパンツスーツを都会的に着こなしている。聞けばスポーツジムやエステに定期的に通っていて、自身のメンテナンスにも気を遣っているという。
 では、経歴から聞かせてもらっていい?
「出身は北関東にある地方都市です。地元ではかなり偏差値の高い女子高を卒業して、東京の大学に進学しました」
 有名私立大である。成績優秀でもあったようだ。
 大学生活は楽しかった?
「そりゃあもう。田舎では規則の厳しい女子高に通っていたので、その反動もあって遊びまくりました。もちろん恋愛もたくさんしました。自分で言うのも何ですけど、結構モテたんですよ」
でしょうね。
「卒業後は損保会社に入社しました。研修の後、営業部に配属されたんですが、仕事の量がハンパなくて、残業、休日出勤は当たり前、デートする時間もないんです。それで大学時代から付き合っていた彼とは1年で別れることになりました。それからも恋人らしき人は出来たんですけど、プライベートより仕事優先の状況だったからどうしても長続きしないんですよね。彼から『仕事と僕とどっちが大事?』なんて聞かれたこともありました。そんなこんなで3年が過ぎました」