【試し読み】恋愛小説の名手・唯川恵による修羅場の恋愛学『男と女』④

恋愛小説の名手・唯川恵による令和を生き抜く修羅場の恋愛学 『男と女』(新潮新書)特集

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他人の男を奪い続けて20年、何不自由ないのにPTA不倫、経済力重視で三度離婚…。『男と女―恋愛の落とし前―』は恋愛小説の名手である直木賞作家・唯川恵さんが、36歳から74歳まで12人の女性の実話を元に執筆した初の新書です。
「不倫はすることより、バレてからが本番」「大人の恋には大人の事情があり、責任がある」「恋愛は、成功と失敗があるんじゃない。成功と教訓があるだけだ」などの珠玉の名言で、多様な恋愛を厳しく一刀両断。冷徹さの中にも愛が潜む唯川さんの言葉は、人知れず悩みを抱えている大人の心に突き刺さります。
恋愛だけではなく、人生を生き抜くヒントに溢れた、令和の新バイブルから、「はじめに」と
「第3話 恋愛関係の基本は人間関係である──仕事はできるが恋には幼稚な40歳」を期間限定で試し読み公開します。

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「独身なのは間違いないんです。同棲している女がいるわけでもない。それは何度も確認したので間違いありません。理由を訊いたら『家が汚いから』って言うんです。でも、そんなの理由になります?」
 私はちょっとなんとも言えないけれど。
「デートはだいたいうちに来て、ごはんを食べて、お風呂に入って、テレビ観て、そのままお泊りってパターンがほとんどでした。それで、たまには外で食事したいって言ったら、言われたんです。デートにお金を遣うのはもったいないって。そういうことにお金を遣うより、将来のために貯めた方がいいって。一瞬、それは私との将来を真剣に考えてくれているのかなって思ったんですけど、そのあと、こう言ったんですよ。君が出してくれるのなら別にいいけどって。それまでも外ではほぼ割り勘だったのに」
 確かに、それはあまりにも身も蓋もない言葉である。
「それでようやく気付いたんです。彼、ケチなんです。私の部屋で過ごせば、買い物はみんな私持ちだし、お金をかけなくていい。でも自分の部屋だったらいろいろかかる。だから部屋に入れようとしなかったんですね。これ、ケチでしかないですよね」
 むしろタカリである。
「その上、セックスもちょっと自分勝手なところがあったから、この人とは将来が見えないとわかって、半年くらいで別れました」
 これまた素早い見限りである。
「そうこうしているうちに、転職を考え始めたんです。仕事は増える一方だし、そのわりにお給料はあまり上がらないし、それにまだ女性蔑視の傾向がある職場で、キャリアアップも望めそうにないし、会社の業績も右肩下がりでしたから、この会社にいても先はないと思いました。30歳直前でした」
 すでにキャリアプランは会社の人事部ではなく、自分でデザインする時代となったことを痛感する。