芥川賞作家・羽田圭介が見出した中野の魅力「迷い込む快楽」とは

中野区を舞台に芥川賞作家・羽田圭介が真骨頂を発揮! 『その針がさすのは』特集

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最新作『その針がさすのは』で東京中野文学賞を受賞した、芥川賞作家の羽田圭介さん。スマホに流れてきた公募情報を読んで執筆したという同作は、「中野というテーマがあったからこそ書けた」そうです。

舞台は、再開発の真っただ中にある中野区。この場所に住む主人公の僕は、今日も妻と不妊治療のためにクリニックに向かう。陸軍中野学校があったこの街は、戦前には満州と電信ケーブルで繋がっていて、どこか時空の歪んだ印象のこの街で、ボン・ジョヴィを聴きながら連絡が取れなくなった友人に僕は想いを馳せる…。

羽田さんの目に中野区はどう映っているのか、そして芥川賞作家の知られざる日常が分かるインタビューです。

(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

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中野というテーマがあったから書けた

その針がさすのは

その針がさすのは

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 ―今回なぜ中野区という地域に注目して小説を書かれたのでしょうか?

 特に、中野をテーマにした小説を書きたい、などと思っていたわけではないんです。別の小説に取り組んでいたとき、休憩中にスマホを見ていたら「東京中野文学賞」の募集が画面に表示されました。なんじゃこりゃ、と思いながら詳細を読んでいくと、どうやら中野をテーマにした小説を公募しているらしい。僕は大阪の茨木市の地方文学賞の選考委員をやったことがあるので、それと同じようなものかなとはじめは思いました。
 東京中野文学賞の応募要項を見ていくと、出版社と提携している新人賞(新人発掘を目的とした賞)ではなかったので、文化祭みたいで面白そうだなと。その時はその程度の感想でしたが、自分の小説のネタ帳を見返していたら、中野を舞台にしたら、そこに書いてある様々なアイデアの断片が繋がって小説になるような予感がしたのです。
 ならば、書いてみようかな、と思って書いてみたら書けちゃった。そんなかんじです。

 ―いつもの小説の書き方と比べると、レアなケースなのでしょうか。

 まず書きたいシーンの断片が頭の中になんとなく思い浮かび、それを成立させるために舞台設定や前後のストーリーを肉付けするようにして書くことが多いので、そのようなイメージを出発点とはせずに具現化できたのは、自分としては珍しいです。

  ―羽田さんは、中野という街にどんな印象をお持ちですか?

 大学時代からちょくちょく通っていて、中野に住んでいる知り合いも少なからずいます。飲み屋街として充実していて、魅力的な食材店も数多くあるので、目的を持って訪れる街です。

  ―海産物を見たり買ったりする場面が数多く出てきたように思います。

 中野には良い魚屋さんが多いんです。良い肉屋さんも。「中野ブロードウェイ」の地下、駅から離れた「薬師あいロード商店街」、そして、ホームセンター「島忠」の近くにも卸売りもしているお肉屋さん。
 僕はカロリーを気にしてずっと自炊派できましたが、決して料理好きというわけではありません。だからこそ、生で食べられる新鮮な魚や、焼くだけでじゅうぶん美味しい良い肉などは、僕のような料理好きではないのだけれど自炊で美味しいものを食べたいタイプにはとても便利なんです。そうした新鮮で良い食材が中野だとリーズナブルに手に入ります。