佐伯ポインティ氏、宮島未奈氏推薦!「読んだら絶対に語りたくなる」と話題の『みんな、好きが下手』試し読み①

読んだら絶対に語りたくなると話題の小説『みんな、好きが下手』刊行記念特集

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「イタくなれ、欲しがれ、ちゃんと疲れろ!と激励してくれる―SNS時代の青春小説がここにある!」
――マルチタレント、佐伯ポインティさん
「小林さんの小説を読むと元気が出る。成瀬が好きな人はハマると思う!」
――『成瀬は天下を取りに行く』著者宮島未奈さん 

 2015年、「くたばれ地下アイドル」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、受賞作を含む同名の単行本(のち『アイドルだった君へ』に改題し文庫化)にてデビュー、続く二作目『たぶん私たち一生最強』も多くの読者の共感を呼び話題となり、いま一番「刺さる!」と話題の作家、小林早代子さん。三作目となる新刊『みんな、好きが下手』は、現代を生きる大学生とSNSをテーマにした唯一無二の「失恋小説」です。
彼女に「好き」と言うことは、「いいね!」を1000回もらうより難しい
小林早代子さんの新刊『みんな、好きが下手』の冒頭を試し読み公開いたします。

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   #学園祭 #ハロウィンパーティー #スピーチセクション全国大会

 ダイニングテーブルいっぱいに敷き詰められた餃子の皮に、母が手際よくタネを分配していく。よその家では、餃子を包む時はバットを使うなどしてテーブルに皮を直置きしないらしいと最近知った。うちでは翌日食べるぶんも合わせて一気に二百個近く仕込むから、いちいちそんなこと構ってられないのだと母は言う。
 姉の藍と幼馴染の千秋の目はテレビに釘付けで、きゃーきゃー言いながらJロックバンドのライブ映像に夢中になっているが、手元は器用に餃子を包み続けている。
 夕飯が餃子の日は、隣に住む千秋を駆り出して大量の餃子を仕込み、そのまま一緒に食卓を囲むのがいつしか当たり前になっていた。もちろん俺も労働力のうちだけど、女性陣がテキパキと作業しているのを見ると、まあ別に俺はやんなくてもいっか、とやる気が失せる。テーブルにすら着かずついソファに寝転がってインスタを開き、絶対に今やらなくてもいいのに、たまっていたフォローリクエストの承認作業なんかを始めてしまう。
「ちょっとジン太もサボってないで手伝ってよ」という千秋の𠮟責を「んー」という生返事でやり過ごし、フォロリクを送信してきた鍵アカを確認する。プロフ欄に某お笑い芸人のファンネームがハートで囲んで書かれているから、たぶんこの子はSNSリセット癖のある高校の時のクラスメイト。しょっちゅうアカウントを作り直しているのに、俺の知る限りずっと同じ芸人を応援していて、飽きっぽいのか一途なのかよくわからない。
 今時みんなSNSにフルネームや所属を書いたりしないので、なんとなく同じ大学っぽいとか、同じ高校だったっぽいとか少しでも接点がありそうなら基本的にフォロー許可している。
 俺のインスタのプロフィール欄には、いまだに高校の英語名略称と、三年の時のクラスだけが書かれている。卒業して半年も経つのだからいい加減更新しなきゃなーと思って編集ページを開いてはみたけど、ここに主張したいことがひとつも思いつかない。ひとまず入力してあった内容を全削除し、プロフ欄を空欄にして編集画面を閉じた。
 東京生まれサブスク育ちの俺には人生かけて好きなものがない。新譜が待ちきれないアーティストはいないし、この子が好きって自己紹介がわりに言えちゃうような推しもいない。小学校からやってた剣道も高校まででやめた。同じサークルで野球部出身の宮田は地元の球団を熱心に応援してるけど、俺は別に贔屓の剣士とかないし。
 最近アプリで読んでハマってる漫画とか、死にゲーの実況動画とか、そこそこ好きなものはたくさんある。でも、俺が生まれてこの方心の底から好きなものって餃子くらいしかないかもしれない。
 そう言ったらきっと、千秋は「何それ、つまんない人生」と鼻で笑うだろう。
 お気に入りの曲のイントロが演奏されたらしく、藍が悲鳴に近いような歓声を上げた。自分よりテレビに近い席に座っている藍の後頭部を、千秋はじっと見つめながら、手元は誰よりも早く餃子を包んでいる。
 このバンドを心から好きなのは藍だけで、千秋はただ好きなふりをしているにすぎない。