「どこまで母親たちに言葉を尽くさせれば、この社会は変わるのか」作家・金原ひとみさんが抱いた怒り【書評】
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2022年に日本で刊行され、社会に大きな衝撃を与えた『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著、鹿田昌美訳)。同書にインスパイアされ、日本の母親たちを取材した『母親になって後悔してる、といえたなら』(髙橋歩唯、依田真由美著)も話題となっている。
金原ひとみさんはこれまでX(旧Twitter)などで苦しむ母親たちの言葉を目にすると、自分は一人ではないのだと思え、救われてきたという。しかし同書を読んだ時には、予想に反して怒りが沸き上がってきたと語る。いったいいつになったら、「死と隣り合わせの育児」は終わるのか。今も女性にとって“地獄”だという「この社会で母になること」への思いを語る。
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と言えない地獄
二〇二二年に日本語訳が刊行された、『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著)は、社会に大きな衝撃を与えた。営業職になって……でも、アルピニストになって……でも、父親になって……でも、こんな衝撃は走らなかったはずだ。
人は誰しも、後悔をすることがある。自分の選んだ道であったとしても、人に勧められて選んだ道であったとしても、自分には向いていなかったと後悔するのは珍しいことではない。そこから転職したり転部したり離婚したり、大学に入り直したりなどして、軌道修正を図ることも往々にしてある。後悔とは人生にありふれているものだ。にも拘らず、このタイトルがそこまでの衝撃を与えたということは、社会には不健康かつ非倫理的な、母親という属性に対するバイアスがかかっていたということだ。
本書は、ドーナト氏の本にインスパイアされ制作されたNHKの番組を元に書かれた、母親たちへのインタビューを軸に据えた一冊である。ショッキングなタイトルに「といえたなら」と付け足されているところに、現代の日本には「母親になって後悔してる」という言葉を受け止める土壌がないことが透けて見える。
逃げ場のない育児、求められない助け、育児に追われている内に喪失していくキャリアと経済力、希死念慮を抱いたり、感情を殺さなければならないほど追い詰められていく母親たちの生の声に、身の毛がよだつ思いがした。彼女たちが語るのは、全てあまりにも覚えのある感情、絶望だ。
読む前、本書を読んで自分は楽になるだろうと思っていた。苦しむ母親の言葉は、ずっと私の心を救ってくれたからだ。Twitterなどでも、育児に苦しむ人の話を読むと、自分は一人ではないのだと思えた。しかし本書を読んで私が抱いたのは、沸る怒りだった。


