各話に仕掛けられたどんでん返し、そしてラストに待ち受ける巨大な「罠」とは? 水生大海『私のせいではありません』第1話試し読み①

どんでん返しの女王、水生大海が紡ぐ驚嘆連作ミステリ『私のせいではありません』刊行記念特集

更新

 日本推理作家協会短編部門にノミネート経験もあり、『その嘘を、なかったことには』、『最後のページをめくるまで』など、企みに満ちたミステリ小説で人気の作家、水生大海みずきひろみさん。

 新刊『私のせいではありません』のテーマは「美術業界の闇」。セクハラ、アカハラなどのハラスメント行為だけでなく、派閥争いやギャラリーストーカーなど、いま社会でも問題視されている若手美術家を取り巻く搾取構造を炙り出す衝撃作です。

 その第1話「六年前の赤い扉」を全5回にわたり特別公開いたします。

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      1

 はじまりはいつだったのだろう。
 事件が起きたのは結婚式の集まりだ。けれど六年前にあの赤い扉の謎を解いてさえいれば、今、違う景色が見えているかもしれない。別の場所にいたのかもしれない。
 ―私も、そして友人たちも。

      *

 二次会のパーティ会場の受付で、新郎新婦に対するメッセージをと、リーフ形のカードを渡された。針金で枝木を模したものにこれを吊るして、寄せ書きのツリーを作るそうだ。
 ハッピーウエディング、瑠璃。どうぞお幸せに! …これでは平凡だろうか。
 会場は高層階にある瀟洒なレストランだ。大きな窓の向こうに、夕暮れに染まるビル街が見えていた。会がはじまるころには夜景に代わるだろう。それを借景として、まだ枝のほうが目立つ寄せ書きツリーが置かれている。
 うまい言い回しを思いつけず、ほかの人のメッセージを参考にしようと席から立ちあがったところで声をかけられた。
「ひーなたー。久しぶり。変わってないねー。ってやだぁ、陽向がちゃんとした恰好してる。なんか不思議」
 美大の同級生、糸川由紀だ。隣に、田淵千奈もいる。たぶんそうなるだろうと思っていたとおり、ちょっとした同窓会だ。笑顔のふたりが向かいに座るので、私も再び座った。
「いくら元美大生でも、絵の具だらけのトレーナーやジーンズで来るはずないじゃん。由紀も千奈もめっちゃゴージャス。二次会だからフォーマルでなくてもいい、って案内だったけど、やっぱそんなかんじになるか。ふたりとも似合ってる」
 由紀はオレンジ色のタイトなロングワンピースに、レースのショールを羽織っている。千奈のワンピースは光沢のある紫色の生地で、花模様が散っていた。どちらも高そうだ。
「二次会は会場の雰囲気に合わせるものだからね。ここ、けっこういいレストランだし、挙式からの人はきっちりフォーマルだろうし」
「そう。負けられない」
 千奈の発言に、由紀が胸を張って応じていた。
 由紀は、洋画科で一番お洒落だった。次第に、実習で汚れてもいい恰好になっていく周囲に逆らい、白衣をまとい、ロッカーに替えまで入れていたほどだ。服装チェックも好きだった。一方、私など相当いいかげんで、千奈もダボッとした服が多かった。
「陽向って二次会からなんだ。瑠璃たち四人でグループ展をやったくらい仲が良かったから、てっきり披露宴からかと」
 由紀が言う。
 ひとりで画廊ギャラリーを借り切って展示をするのが個展、対して、複数人で集まってやるのがグループ展だ。大学三年生のときに、本日の主役である天藤瑠璃、小椋未緒、神津乙羽と私の四人で行った。場所を一週間借りたが、私の絵は一枚も売れず、落ち込んだのをよく覚えている。絵で食べていくことは難しいと突きつけられた四人展だったけれど、学び舎の傘を離れて仲間と一から準備したのは楽しく貴重な体験で、友情も深まった。
「ちょっと、由紀」
 由紀の言葉を、千奈が小声でたしなめた。
「じゃあ未緒と乙羽は、披露宴からなんだね」
 私はなんでもないかのように、笑顔を作る。
「そう聞いた。教会式だから、参列は挙式からでしょ。一日仕事になるから大変だよね」
 千奈が肩をすくめた。