各話に仕掛けられたどんでん返し、そしてラストに待ち受ける巨大な「罠」とは? 水生大海『私のせいではありません』第1話試し読み④
どんでん返しの女王、水生大海が紡ぐ驚嘆連作ミステリ『私のせいではありません』刊行記念特集
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日本推理作家協会短編部門にノミネート経験もあり、『その嘘を、なかったことには』、『最後のページをめくるまで』など、企みに満ちたミステリ小説で人気の作家、水生大海さん。
新刊『私のせいではありません』のテーマは「美術業界の闇」。セクハラ、アカハラなどのハラスメント行為だけでなく、派閥争いやギャラリーストーカーなど、いま社会でも問題視されている若手美術家を取り巻く搾取構造を炙り出す衝撃作です。
その第1話「六年前の赤い扉」を全5回にわたり特別公開いたします。
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「柳教授には、思い当たる節があったんじゃない? 第一の犯人を名指しすると、自分にも火の粉が降りかかるって。つまり最初に描かれていたのは、彼への非難だ。絵か文字かわからないけど、彼のセクハラを告発するもの」
「セクハラ」
由紀も千奈も、怖い顔になる。
「うん。今、訴えられていることを考えれば、当時から自覚なくやらかしていたんだと思う。でも非難されたらまずいことぐらいは、わかってたはず。だから見えなくした。厳しい指導をしていたせいだ、反省したと伝え、歪めて話を収めることで終わらせたんだ」
「それってつまり、反省してないってことだよね」
千奈の言葉に、そのとおりだと思う。
もしかしたらこの六年の間にも、訴えるというハードルを跳び越えられずに闇に葬られた被害があったのかもしれない。いや、「かも」じゃない。同じことが続いた結果が、今、なのだ。
頭上から、咳払いがした。私たちははたと顔を上げる。
「みなさん、カードをお願いします」
さきほどの女性だ。儀礼的な笑みを浮かべているけれど、目は笑っていない。
「すみません、すぐに」
「ごめんなさい。今、書きます」
千奈と私が謝り、由紀が花の形のカードを差しだした。
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結局、ハッピーウエディングというありきたりの言葉しか出てこなかった。由紀にしても、イラストのほかは、結婚おめでとう、だけだ。お祝いの気持ちは瑠璃に直接伝えよう。
千奈も私も女性にカードを渡した。ちゃんと書けたほうのカードだ。いたずら書きをハートで消したほうは、手元に残っている。
改めて、私は千奈に向き直った。
「千奈、間違ってたらごめんね。本当は、第一の犯人は千奈だと思ってる」
「ええっ?」
由紀が千奈のほうを見て驚いた。千奈はゆったりとほほえんで問う。
「証拠は?」
「今は……ない。だけど千奈は、あのとき陽向はこうだったね、このことを調べてたよね、って、六年も経ってるのに詳しく覚えている。調査のようすを窺っていたんじゃない?」
「それ、ただの印象だよね」
「うん。だから間違ってたらごめん。だけど私も当時を思い返しているうちに、記憶の断片が浮かんできたんだよね。たしか前日の裸婦デッサンのとき、千奈は柳教授からなにかを言われてたよね。あのあと不機嫌そうにしてなかった?」
千奈が呆れた表情になる。


