クレイジーケンバンド・横山剣が「何も毎年出すことはないんじゃないの」と言われてもアルバムを出し続ける理由とは?
≪東洋一のサウンドマシーン≫クレイジーケンバンド横山剣インタビュー
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クレイジーケンバンドの通算24枚目の新作が、今年もまた9月に発売された。タイトルは「火星」。太陽系の惑星のことかと思ったら、何とかつて横浜市鶴見区にあった焼肉屋の名前から取ったのだとか。
アルバム発売後の秋から来春にかけて予定されている、これまた恒例の全国ツアーは、北は釧路から南は鹿児島まで全22か所。公演数の増減やホールの大小こそあれ、これをバンド結成から27年、ほぼ毎年続けてこられたというのは並大抵でなはい。今年64歳になるボーカル兼バンドリーダーの横山剣に話を聞いた。
(全2回の第1回)
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「新作の出る9月が新年、正月」と語るファンも
「もはやCKB(クレイジーケンバンドの略称)が生活の一部、年中行事の一環といっても過言ではない」と熱っぽく語るのは、東京在住の64歳の男性だ。毎年春のファンクラブ会員限定ライブを口開けにして、9月に発売される新作CDを予約購入。秋冬の全国ツアーは、関東地区の少なくとも3~4公演に足を運ぶ。このほかに、ライブハウスやホテルでのライブやイベントを聞きに行くこともあるという。
「新作の出る9月が新年、正月という感覚。ツアーしょっぱなのライブ会場で顔見知りのファンと、元気だったか、生きてたかなんて挨拶しながら、新作グッズを買いあさるんです」
もともと海外のロックやジャズのファンであり、日本のポピュラー音楽はほとんど聞いて来なかったが、20数年前に「ドハマり」したという。「一曲一曲に共感できるストーリーと世界観がある。欲望や悲しみなどのリアルな感情が、大人の鑑賞に堪えるような表現で歌われていて、非常に共感できたんです。どんな人が作っているのかとバンマス横山剣さんの年齢を確認したら、やっぱり同い年(笑)。独特のユーモア感覚にも溢れていて、日本にこんなバンドがあるのかと驚きました」
そのサウンドの、どこに魅力を感じているのか。
「10代で聞いていたキャロル~永ちゃん路線に、20代で好きになったソウルやファンクが加味され、1950~60年代の映画音楽や昭和歌謡のテイストも盛り込まれている。間口が広くて聞きやすく、決してマニアックに陥らない。歌詞には横浜横須賀からソウルや香港、バリ島からパリのシャンゼリゼと世界各地が登場し、恋愛を初めとする様々な人間ドラマが歌われていて、どの曲も映画を見ているような感覚にさせられます」
そんなクレイジーケンバンドの通算24枚目の新作が、今年もまた9月に発売された。タイトルは「火星」。太陽系の惑星のことかと思ったら、何とかつて川崎にあった焼肉屋の名前から取ったのだとか。このあたりの独特のセンスもCKB流だ。秋から来春にかけて予定されている全国ツアーは、北は釧路から南は鹿児島まで全22か所。公演数の増減やホールの大小こそあれ、これを毎年続けていられるのだから、しっかりとした固定ファンの存在は明らかだ。
新しい血を導入しながら、60代を疾走
バンドを率いる横山は、ライブに足を運ぶそうしたファンの実像を、どのように捉えているのだろう。
「ステージから見る限り‥‥というのはウソで(笑)、ファンクラブ会員のデータでも確認していますが、年齢的には50代が中心ですね。女性ファンもずいぶん増えてきました」
曲作りをする際に、ファンの年齢性別を意識することはあるのか。
「作る時には、それはありません。もう作りたいものを作っているだけです。まあ作る当の本人が64歳なので、64歳の今というものが放っておいても曲に出てくる。若い人から見たら『そんな世界は分からない』という部分も多々あると思いますが、その分だけ同世代には共感してもらえるのかもしれませんね」
11人のバンドメンバーも横山を筆頭に、長年活動を共にしてきた50代後半から60代がほとんど。ファンとも一致する年齢構成だが、ここ数年の間に、ボーカルとドラムに30代の新メンバーが加わった。バンド内に変化はあったのだろうか。
「やはり音楽的には影響がありました。例えばアイシャさん(ボーカル)とは、聞いている音楽、好きな音楽は一緒だったりするんですが、聞き方のセンスが僕ら世代とは違う。1990年代のレア・グルーブとも共通するような、古い曲をまるで新曲のように聞ける感覚、それが僕ら世代にとってはすごく新鮮でした」
新しい血を導入しながら、60代を疾走するクレイジーケンバンド。横山はこの先の活動について、どんなイメージを持っているのか。
「お先真っ暗(笑)、ってわけじゃないんだけど、正直先はまったく読めません。だから、やれるうちにやれることをやっとかないと後悔するぞ、と思っています。毎年アルバムを出すのもそういうこと。もし20代、30代だったら3年ほど間を空けてみようとか、5年ぐらい休憩してみようとか、そんなことができるのかもしれないけど、なにしろデビューが37歳の自分は、その間に死んでしまうかもしれない(笑)。スタッフとかお客さんからは、何も毎年出すことはないんじゃないの、なんて言われるんですが、そんな時はすぐに、ジャズの渡辺貞夫さんの名前を出すんです。あの人は90歳を過ぎても、毎年アルバムを出してますからね」
同年代のファンに支えられる遅咲きバンドの最盛期は、まだまだ先なのかもしれない。
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ここからは、往年のファンも若いファンも虜にする、クレイジーケンバンドの「昭和的」魅力についての話に。横山剣が語る、昭和の「かっこよさ」とは?
第2回【かっこよくて不適切「昭和の復権」を予言していた「クレイジーケンバンド」の凄み】を読む