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- コンビニ人間
- 価格:1,430円(税込)
こんにちは、eBookJapanの文芸ページを管理しております店長の山本です。
7月19日、第155回芥川賞・直木賞が発表されました。ハイレベルな候補作のなかから見事受賞したのは、村田沙耶香『コンビニ人間』(芥川賞)と、荻原浩『海の見える理髪店』(直木賞)。いずれも読みやすい文章で書かれていながら、奥深さが感じられる作品です。電子書籍化されていますので、ぜひ多くのeBookJapanユーザーの皆さんに読んでいただきたいと思っています。
芥川賞受賞は村田沙耶香『コンビニ人間』
芥川賞を受賞した村田沙耶香さんは、純文学新人賞はすでに野間文芸新人賞と三島由紀夫賞を受賞していて、このたびの芥川賞受賞によって晴れて“三冠王”となりました。代表作のひとつ『殺人出産』では、10人産めば1人殺してもいいという世界を描くなど、作家仲間から呼ばれている「クレイジー沙耶香」というあだ名通り、独特の作風が特徴です。
受賞作の『コンビニ人間』は、子供の頃から周囲と感覚が違っていた女の子が主人公。死んだ鳥を見つけたら、ふつうの子供だったら可哀想だから埋めてあげようとか、気持ち悪いから逃げようというふうになると思いますが、この主人公は「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」となる。万事がこんな感じだから周囲から浮いてしまい、次第に自分の殻に閉じこもってしまいます。
そんな主人公が大学時代に出会ったのが、コンビニバイト。マニュアルが支配する世界では、マニュアル通りに行動していれば“人間”として扱ってもらえます。実際にコンビニバイトを続けている村田沙耶香さんによる“コンビニ愛”あふれる描写とともに、主人公が活き活きとコンビニバイトに励む姿が描かれています。
マニュアルなど社会の規範に翻弄される弱い人の悲劇をジメッとした文章で描いた文学作品が多いなか、『コンビニ人間』は逆に、喜々としてマニュアル人間になっていく主人公をカラッとした文章で描いている。だからといってマニュアル人間を肯定しているわけではなく、読めば現代人の悲しさがジワッと伝わってくる。ラストも圧巻。傑作です。
直木賞受賞は荻原浩『海の見える理髪店』
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- 海の見える理髪店
- 価格:1,540円(税込)
直木賞を受賞した荻原浩さんは、もともとコピーライターでしたが、クライアント向けの文章ではなく自分の文章が書きたいと、39歳から小説を書き始めたそうです。若年性アルツハイマーを扱った『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞して注目を集め、同作を読んだ俳優の渡辺謙から直接許諾依頼を受け、映画化が実現したというエピソードがあります。
受賞作の『海の見える理髪店』に登場するのは、腕利きの床屋、母とうまく関係を築けない娘、子連れで実家に帰った女、家出した女の子、父の形見の修理のために時計屋を訪れた男、娘を亡くした夫婦。様々なところで暮らす人々の人生の一片を切り取った、悲しみと希望が感じられる短編集です。
読めば誰もが、この短編集のどこかに、自らの心の琴線に触れる箇所を見つけられるはずです。それが、この作品のすごいところだと思います。私の琴線に触れたのは、最後の「成人式」という話です。数年前に中学生の一人娘を亡くし、悲しみに暮れる日々を過ごしていた夫婦が、娘の死を知らない業者から送られてきた成人式用の着物カタログをみて、後ろ向きの生活を変えるために、なんと自分たちが若作りをして成人式に替え玉出席をしようとします。
「わたし、四十五だよ」「だいじょうぶ。お前なら」。妻は一カ月かけて肌を整え、二人は行きつけの美容室のスタッフを唖然とさせながら着飾って、成人式当日、会場に向かいます。読んでいるこちらが恥ずかしくなるような展開です。しかし、二人は確実に前に向かって進んでいます。周囲からの痛い視線、成人式会場の係員とのやりとり、娘の友人たちのやさしさ……ハラハラさせながら、ほろりとさせる。荻原浩の熟練の筆が味わえる名作です。
直木賞候補作の感想
惜しくも受賞に至らなかった直木賞候補作のうち、私が特に注目したのは、原田マハ『暗幕のゲルニカ』と、伊藤潤『天下人の茶』です。前者は画家のパブロ・ピカソ、後者は茶人の千利休という偉大な芸術家を中心に、いずれも彼らが生きた当時の政治情勢を描いた、スケールの大きな作品です。“反戦のメッセージ”を命懸けで世に伝えようとした芸術家たちのすごみが感じられる、一気読み必至の傑作です。
直木賞選考会で評価の高かった門井慶喜『家康、江戸を建てる』には、徳川家康が治める前は不毛の地だった江戸の地を日本の中心地とするためのインフラ整備の様子が、活き活きと描かれています。紙書籍で400ページを超える大長編なのですが、池波正太郎をほうふつとさせる軽妙な語り口と丁寧で分かりやすい描写により、歴史ファンならずともどんどん読み進めてしまう作品です。
“このミス”ほか各種ミステリーランキングで、2年連続1位を獲得した米澤穂信さんの『真実の10メートル手前』は、前作の『王とサーカス』に登場する女性ジャーナリスト・太刀洗万智が主人公の短編集です。この作品のすごいところは、ひとつひとつの短編が異なる手法で描かれていること。著者の技術力に圧倒されてしまいました。作中に描かれる、ジャーナリズムや正義に対する著者の考え方も興味深く、オススメです。
イヤミス(読後イヤな気持ちになるミステリー)の女王、湊かなえさんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』は、本当に読んで嫌な気持ちになりました(笑)。でも最後まで読むのをやめられませんでした。中毒性のあるストーリーです。さすがです。湊かなえさんの小説は『白ゆき姫殺人事件』以外電子書籍化されておらず、あまり電子書籍ユーザーにお届けできていないのが残念です。
第155回芥川賞・直木賞はいかがでしたでしょうか? 半年後も皆さんと楽しみたいと思います。では。
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