小林秀雄と人生を読む夕べ【その5】歴史と文学:『満洲の印象』

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 日本の近代批評の創始者・確立者として大きな足跡を残した小林秀雄は、深い思索と歯切れのよい文章で人生の教師としても仰がれ慕われました。亡くなって今年は33年になりますが、今なお新しい読者が何人も生まれています。このレクチャーでは、そういう小林秀雄の主要な作品を順次取り上げ、小林秀雄が語った人生を読み味わっていきます。

 ご案内は、小林秀雄氏の生前、編集担当者としてじかに接していた新潮社の元編集者、池田雅延さんです。前半50分は、各回の対象作品について、池田さんが小林氏から直接聞いたことを交えてお話しします。後半40分は、出席者全員での茶話会とし、池田さんが質問にお答えしたりしながら、座談の名手でもあった小林氏をより身近に感じるひとときを過ごします。

 「歴史と文学」シリーズの第1回目に読むのは、「満洲の印象」です。

 小林秀雄は、昭和13年、約1ヶ月にわたって、朝鮮半島、満洲、華北を旅行しました。この一編はその旅行記にあたるものです。秀雄は、いま日本人は新たに中国人を理解する必要に迫られながら、中国にも日本にも、それぞれの民族を理解させるような文学が近代には生まれていないことに思い当たることから旅を始めます。いま読んでも、思い当たるところの多い一編です。

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*講師・池田雅延から第5シリーズのテーマ「歴史」と小林秀雄について

 2016年10月から始める第5シリーズのテーマは「歴史」です。

 小林秀雄の批評家生活は、60年に及びましたが、その60年を通じて一貫していたテーマが2つあります。「言葉とは何か」と「歴史とは何か」です。

 今回はそのうち、「歴史」に重点がおかれた文章のなかから6篇を選んで読んでいきます。むろん「歴史」は「言葉」と切り離すことができません。したがって、歴史について考えるということは、言葉について考えることにもなるのです。

 いつの世にも歴史好きと言われる人はたくさんいます。しかしそのいっぽうで、歴史と聞くと「ああ、あの暗記物か」と眉をひそめる人も少なくありません。

 小林秀雄は、30歳の頃から明治大学の教壇に立つようにもなり、フランス語や文学概論のほかに日本文化史を教えていました。そこで痛感したことは、学生たちが歴史というものに対してまことに冷たい心を持っているということでした。同じく「歴史と文学」で言います。

――学生たちは皆、小学校・中学校で、歴史は学んできたはずだが、すっかり忘れている。正確に暗記せよと言われたことは、用がすめば忘れてしまえと言われてきたようなものだから無理もないが、歴史の授業のつまらなさをさんざん教えこまれてきた学生たちの顔を見るたび、彼らの歴史に関する興味をどうしたら喚起できるかと思って難儀する。

――歴史は、人間の興味ある性格や尊敬すべき生活の事実談に満ち満ちている。そういうものを締出してしまって、年代とか事件の因果とかを中心に歴史を教えているのは、歴史は通史の体裁を整えて教えねばならぬという偏見が根本にあるからだ。通史にこだわって暗記を強要するのではなく、建武中興なら建武中興、明治維新なら明治維新というような、歴史の急所に重点を定め、そこを精しく、日本の伝統の機微、日本人の生活の機微に渉って教える、思いきってそういうことをする。

――学生の心は、人生の機微に対して鋭敏である。人生の機微に触れて感動しようと待ち構えている学生の心を尊重する。限られた授業時間には限られた教材しか入らないという考えは捨てるがよい。逆である。学生の暗記力には限りがあるだろうが、心は限りがあるというようなものではない。暗記力ではなく心を目当てにすれば、材料にも時間にも不足はあるまい。……

「歴史と文学」でこう言った小林秀雄は、明治大学の教壇以外でもこの心がけ、すなわち、「歴史は人間の興味ある性格や尊敬すべき生活の事実談に満ち満ちている/建武中興なら建武中興、明治維新なら明治維新というような、歴史の急所に重点を定め、そこを精しく、日本の伝統の機微、日本人の生活の機微に渉って教える/人間の心は、人生の機微に対して鋭敏である。人生の機微に触れて感動しようと待ち構えている心を尊重する」という心がけで歴史と向き合い、歴史を語りました。

 今回取り上げる「満洲の印象」「事変の新しさ」「私の人生観」には、「歴史の急所」に立った「人間の興味ある性格や尊敬すべき生活の事実談」が満ちあふれ、「日本の伝統の機微、日本人の生活の機微」が精しく語られています。

■日時:2016年10月20日(木)18:50~20:30
■会場:la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko
■参加方法:http://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01n4kzydn5u7.html

*日程と味読作品 作品名末尾の( )内は新潮社刊「小林秀雄全作品」の所収巻

●2016年10月20日満洲の印象(11)
●2016年11月17日 事変の新しさ(13)
●2016年12月15日 歴史と文学(13)
●2017年 1月19日 私の人生観(17)
●2017年 2月16日 年齢(18)
●2017年 3月16日 対談・歴史について(28)

☆いずれも各月第3木曜日、時間は午後6時50分~8時30分を予定していますが、やむを得ぬ事情で変更する可能性があることをご了承ください。

小林秀雄(こばやし・ひでお)
明治35年(1902)4月、東京に生れる。昭和4年(1929)27歳の夏、「様々なる意匠」によって文壇にデビュー、以来ほぼ半世紀、日本の近代批評の創始者、確立者として歩み続けた。昭和42年11月、文化勲章受章。昭和58年3月死去、80歳。

池田雅延(いけだ・まさのぶ)
昭和45年(1970)、新潮社に入り、「本居宣長」をはじめとする書籍の編集を通じて小林秀雄の肉声を聞き続けた。小林亡き後も第5次、第6次「小林秀雄全集」を編集、第6次全集では本文を新字体・新かなづかいで組み、全作品に脚注を施すなどの新機軸を打ち出した。

2016年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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