人間の世界に現れた小さな神様たちを描く「コロボックル物語」シリーズなどで知られる、日本屈指の児童文学作家、佐藤さとる(88)は、愛読書を聞かれると、自ら執筆した童話「てのひら島はどこにある」(昭和40年)を挙げるそうだ。自身が「コロボックル物語の前身」「私の全著作の故郷」と位置付けるように、この童話は佐藤のキャリアの原点であり、とりわけ思い入れが強い。そんな虎の子が2月、理論社から50年ぶりに復刊(1400円+税、絵・池田仙三郎)された。
小学3年生の太郎は手の付けられないいたずら小僧。その夏の朝も自宅をこっそり抜け出し、町外れにある丘に木イチゴ狩りに出かけていた。道中、迷い込んだトマト畑で畑の持ち主のおじいさん、その孫で大きな目をした女の子・ヨシコと友達になった太郎は、母や双子の姉と創作した、人間にくっ付く「虫の神さま」たちのお話をしてあげた。後日、ヨシコの元を訪ねる太郎だったが、どうしても場所を思い出せず、たどり着けないまま15年の歳月が流れた-。
作品全体の語り手には、あるおばあちゃんが据えられ、太郎の物語に加え、太郎たちが作中で語る「虫の神さま」たちの物語はいわば劇中劇として挿入される。さらに、佐藤が若き日に執筆した別の短編が本作の後半に合体されるなど、本作は趣向を凝らした三重構造で紡がれている。
コロボックル物語の構想・執筆で多忙となった佐藤がこの「ぎこちない習作」をいったん“寝かせ”た結果、出版はコロボックル物語の第1巻(昭和34年)よりも後にずれ込んだ。編集を担当した理論社の岸井美恵子さんは「名作『コロボックル物語』が生まれるまでの長きにわたる試行錯誤がぎゅっと詰まっています。若い読者にもぜひ知ってもらえればうれしい」と話す。(高橋天地)
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