『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』中川裕著
[レビュアー] 岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)
歴史創作は今や年齢を問わずより深い歴史探求への扉である。事物のリアルさを追求することで、それらは大道具や小道具といった役割を超えて、物語をより深く紡いでいくのに役立っているのだ。こういった「舞台装置」がより明確なリアルさを持ち始めたのは『ベルサイユのばら』以降ではないかと思う。ともあれ、マイナーな舞台の漫画でも、SNSで誰かの好意的な感想が瞬く間に拡散されると、トレンドは思わぬ形で作られていく。『ゴールデンカムイ』もまた、一般的には決して関心が高かったとはいえない、日本列島の先住民族アイヌへの高い関心を呼び起こした作品である。
本書著者は原作連載にあたりアイヌ語、アイヌ文化の考証の立場で参加した人物である。そこで表象されるアイヌ文化は、舞台の小道具の役割を超えて、読者を未知のアイヌ世界へと導く役割を担っている。集英社は言うまでもなくコミックスを主力とする出版社であるが、近年は漫画を入り口として、とくに若い世代をさらに深い知的世界へと導く書籍刊行にも意欲的であり、本書もその一冊と言えるだろう。(集英社新書、1650円)