第一章 卵に還る【2】

VR浮遊館の謎―探偵AIのリアル・ディープラーニング―

更新

前回のあらすじ

AI小説家・フォースのかかわるビックプロジェクト。その晴れ舞台に立ち会うべく、AI探偵事務所の相以と輔が向かった先は―。

Illustration /レム
Illustration /レム

     *

「さて、着きましたよ」
 大川さんはそう言って駐車場に車を駐めた。
 そこは新鏡社の本社ビルではなく、有名国立大学のキャンパスだった。この大学もビッグプロジェクトに協力しているということは聞いていたので驚きはない。
「こっちです」
 僕は大川さんの案内に続く。
 キャンパスで僕と同年代の学生たちとすれ違ううちに、ふと自分が大学生になったような錯覚に囚われた。
 もし父さんが死ななかったら、僕も今頃は普通に大学に通っていただろう。
 あり得たかもしれない未来。
 憧憬はなくはないが、今の人生だって捨てたもんじゃない。
 名探偵―それもAI探偵などという飛びきりの変わり種―の助手を務められるなんて推理小説マニア冥利に尽きるというものだ。
 点在する建物の一つに入る。
 高校までとは全然違う、どちらかと言うと大病院のような印象を受ける空間に少し圧倒された。
 ずらりと並ぶ部屋はすべて研究室的なものなのだろうか。それとも講義が行われているのだろうか。学生らしき若者が行き交っているけど…。
 キョロキョロと辺りを見回しているうちに、いつの間にか大川さんとの距離が離れてしまっていることに気付き、慌てて足を速める。
 彼がドアの一つをノックしているところに追い付いた。
 学生か院生か、僕とそこまで年齢が変わらないように見える青年が出迎えてくれた。
 そこは長机が四角いドーナツ状に配置された、会議室のような部屋だった。
 スーツや白衣など服装は様々だが、アカデミックな「大物感」は共通している人々が十名弱長机に着いている。
 その中に一人だけ見知った顔があった。