三兄弟で男ばっかりでイヤになるでしょ、って結婚するときにお義母さんが笑って言っていたけれど、そんなこともないです。
 実家にいるときにも、お母さんはフォトグラファーとして外に出ていることが多くて、家にはお父さんと陸の男二人ってことが多かったから。鈴ちゃんは私が大人になる前に家を出ていたし。
 今は、帰ってきているけれど。
 また少し思い出し笑いしてしまった。
 私が晶くんと結婚して、阿賀野家と真下家は親戚になったけれど、その二つの家の長女と長男が、同じように離婚して家に戻ってきてしまっている。
 何の偶然なんだろうねぇ、ってお義母さんも苦笑していたけれど。
 いや、本人たちにとっては笑い事ではないのでしょうけれども。
 でも、鈴ちゃんにとっては良かったことになっているんだ。
 離婚そのものは確かに不幸な出来事に分類されちゃうんだろうけれど、鈴ちゃんの場合は、それで良かった。
 あのDV男と離婚できて。やよいの親権も取って、新しい自分の人生を歩めるようになって、本当に良かったんだ。離婚後も今のところは一切あの男は接触してこないみたいだし。
 翔さんの場合は、うん、不幸なことで、可哀想なんだけど。
 家族である真下家全員が笑ったというか、情けないと思ったというか、やっぱり笑ってしまったんだけど。
 離婚の原因は、奥様の浮気だったらしい。
 それで、別れることになった。幸いにもまだ子供はいなかったし。
 別れてそれぞれに新しい人生を歩めばそれで良かったんだけれど、翔さんが結婚して新居にしていたマンションは、奥様のご両親が購入して住んでいたマンションだった。
 つまり、奥様の持ち物。
 なので、翔さんはそこを出て、実家に戻ってくるしかなかった。新しい部屋を借りるにしても、同じ都内で働いているのに、しかも実家に戻ればそれまでよりも会社に近くなるのにすぐに借りるのはなんだってことで、とりあえず戻ってしまった。実家の、この肉・総菜店〈ました〉改め〈デリカテッセンMASHITA〉に。
 それで、出戻りと呼ばれてしまっているんだ。
 男の場合も、出戻りと言っていいんでしょうかね。わからないけれども。
「優、お母さんお店の手伝いに行くからね」
「ぼくも行く」
「行く? 翔伯父さんいるけど、きっと部屋に行ったら遊んでくれるよ?」
 足があれだけども、きっと相手はしてくれる。翔さん、子供好きだし。忙しいのは、ほんの一時間ぐらい。その間、優は一人でもお留守番できる。留守番といっても下はすぐ店だから。
「いい。店に行く」
「そっか」
 もちろん一緒に店に行っても優は大丈夫。最近は、店前のワゴンのところに来て、お客さんの相手もしてくれる。
 いらっしゃいませ、とか。そしてお弁当やパック詰めの総菜を並べてくれたりする。お店のお手伝いを、ちゃんとできるようになっている。
 名前の通りに、優しくて優秀ないい子。笑顔や、ちょっとした仕草や、そういうものが本当に晶さんにそっくりになってきたって、お義母さんも言ってる。

(つづく)
※次回の更新は、3月21日(木)の予定です。