北村薫×藤原龍一郎×穂村弘・座談会 短歌というミステリーの謎とき 『うた合わせ 北村薫の百人一首』刊行記念

対談・鼎談

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うた合わせ 北村薫の百人一首

『うた合わせ 北村薫の百人一首』

著者
北村 薫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784104066117
発売日
2016/04/22
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『うた合わせ 北村薫の百人一首』刊行記念 北村薫×藤原龍一郎×穂村弘/短歌というミステリーの謎とき

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左から、穂村氏・北村氏・藤原氏

本書の巻末に収録された〈歌人と語る「うた合わせ」〉(ラカグsokoでの公開トーク)の一部をご紹介します。

北村 「短歌俳句は作る人でなければ、本当に味わうことはできない」といわれます。私は短歌を作らないんです。「歌人には、どう読まれるのだろうか」と、恐る恐る(笑)、お聞きいたします。

穂村 韻文のパワーって、いわゆる正しさみたいなものからずれたところで成立することがやっぱりあって、そういうことを、書き手の感受性がつきとめているっていうのかな。でも、それは韻文をやる人はみんな直感的に知ってるんだけど、北村さんは直感的に知っていることを、散文的にもう一回、検証されている。韻文の魅力は正しさだけにはないっていうことを重々知っていながら、同時に散文的な執念みたいなものも持っていて、そこに、謎を解いていくミステリーのセンスを感じるんです。

 僕はミステリーをそんなに読み込んでいるわけじゃないけど、自分が好きなミステリーって再読できる。それは散文的な謎が解けても、その奥には命とか存在とか人生とか、そういう根本的な謎があって、それがむしろ強化される。謎が解けたことによって、事件は解消されるが、残った一人一人の人間の命や人生はより混沌として異様な感じになって、世界はなんて恐ろしいんだっていうふうに思えるものこそが、すごくかっこいいって思うんだけど、それは、韻文的な深さと散文的な誠実さの両方がないと成立させることのできないジャンルだって思うんですよね。北村さんも、普段ミステリーを書くときに、そういう書き方をしていると思うのですが、短歌を読むときにも、その両輪をすごく回してるっていう感じがするんです。韻文だからわからなくていいとか、そういう読み方ではなくて、ある種の正しさ、散文的な明快さを突き詰めようとする。でも、それがどこかで破綻すると、声を上げて喜ぶみたいなところがあって。とても楽しそうなんです。それを楽しいって感じる感受性がすごくあるんだな、と。だから、この本はとてもスリリングなんですよ。

 短歌っていうのは、誰でも一人では味わい切れないジャンルっていう感じがするんです。こういう名手がその味わいかたを教えてくれる――しかも自分が普通とは違う読みをしたっていうことも堂々と書いてくれているから、そこが、やっぱりすごく面白いんです。

藤原 これは北村薫っていう人の目で短歌を読みこんだもので、単なる現代短歌の鑑賞の本ではないですよね。それは歴然とわかります。穂村さんがおっしゃったことは、まったくそうなんです。そして全部読んでいくと、「うた合わせ」として短歌が二首並んで選び出されているけど、結局はその章の中にほぼ九割九分まで一首目のことしか書いてなくて、最後にちょっとだけもう一首のことが触れられているというような章もある、ただの鑑賞の本ではありえない書き方です。

 やっぱり覗いてる窓が違うんですよね。歌人からは、こういう読みって出ないと思うんですよ。

北村 そのお言葉は、すごくありがたいですね。ほかの人が書かない、書けないだろうって本を書くことが、書く者の務めですからね。

穂村 それに、とにかく楽しそうですよね。小説を書くときより楽しんでいるんじゃないかって思うぐらい、文章にも、その感じがにじみ出ています。ずっと短歌を書いてると、短歌って面白いのかな?――みたいな感じになって、わからなくなってくる。最初の何か月かはすごく面白いって確信していたのに。だから、改めて「あ、短歌ってやっぱり面白いんだ」って、思いました。文体そのものも喜びに満ちています。非常に貴重なカンフル剤となってくれる感じがします。

藤原 この本は普通の短歌の読み方を教える本ではないんです。歌人向けでもない。短歌だけでなく文学全般に興味がある人が、読者として想定されている本だと思います。こういう形で現代短歌を読み解いた本はなかった。こういう形の読みに、現代短歌は直面して来なかったんです。どうしても二十年、三十年と短歌を創っていると、ほとんどの歌人の看板を知っているような気になってしまうので、一切のしがらみがない立場で、作品として読んでいるというところがとても貴重だと思います。たくさんの人に読んで欲しいですね。

新潮社 波
2016年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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