<東北の本棚>仲良しの曽祖母の秘密

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

お手がみください

『お手がみください』

著者
高森美由紀 [著]
出版社
産業編集センター
ISBN
9784863111356
発売日
2016/09/12
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>仲良しの曽祖母の秘密

[レビュアー] 河北新報

 「しんあいなる おばあちゃんへ」。仕事で忙しい両親と暮らす小学2年の眞子は、数カ月前に同居を始めた仲良しの曽祖母かずに手紙を書くことを思い立つ。部屋のこたつの上に書き置けば、学校から帰るとおばあちゃんからの返事が届いているはず。そう毎日期待するけれど、何度書いても返事は来ない。理由は後に、思いがけない形で明かされる。
 子どもとお年寄りは年齢も経験も懸け離れているのに、なぜか心理的距離は近い。親子とは似て非なる秘密結社的つながり。多世代同居のほのぼのした家族愛を感じさせる長編小説だ。
 眞子が手紙を書くきっかけは、国語の教科書にある「がまくん」と「かえるくん」の物語「ふたりはともだち」(アーノルド・ローベル作)だった。二人が手紙を心待ちにする話をかずの前で音読すると「いい話だったねえ」「眞子は大したもんだ」と喜んでくれたからだ。
 母の志摩子は留守中の事故を心配するあまり、眞子とかずの行動を縛りがち。でも、かずは眞子に料理や洗濯を教え、ひそかに眞子の成長を後押しする。授業参観日。眞子は、休みが取りづらく不機嫌そうな志摩子には知らせず、かずに来てくれるよう頼む。かずは約束通り教室に姿を見せるが、そこで一騒動が起こる。
 言動はがらっぱちなのに、孫夫婦に遠慮しながらつつましく生活する86歳のかず。親に甘えたくても甘えられず、8歳なりのプライドを持つ眞子。それぞれの事情を互いになんとなく理解し、尊重し合う関係がリアルで胸を打つ。
 物語の冒頭と結末は23年後の眞子の視点で語られる。眞子は再び「ふたりはともだち」と出合い、かけがえのない過ぎ去った時間を思う。
 著者は1980年青森県三戸町生まれ、同町在住。派遣社員で図書館勤務。「ジャパン・ディグニティ」で産業編集センター主催の第1回「暮らしの小説大賞」を受賞した。
 産業編集センター03(5395)6133=1296円。

河北新報
2017年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク