<東北の本棚>少年たちの成長 丁寧に
[レビュアー] 河北新報
命を吹き込まれた折り紙が躍動する児童向けファンタジー小説。小学6年の少年たちの成長も丁寧に描いた。
主人公の悠馬が山で黒いトカゲを捕まえると、正体は折り紙。自宅に持ち帰ると、夜に動いた気がして薄気味悪く感じる。同じ学級の啓図が通う折り紙教室に行くと、先生に紙のトカゲを預けることになった。厄介払いできたと安心していたら、先生の行方が分からなくなる。
悠馬と啓図が山で先生を捜し始めてから、折り紙から実体化した生き物たちが次々と登場する。カニや鳥が出てきたかと思えば、竜も姿を現した。クライマックスでは壮大なスケールのバトルを繰り広げる。
少年たちの人間関係や心の内の描写も注目すべき点だ。悠馬は植物が好きなのに、周りにからかわれるのを恐れ表に出せない。啓図はクラスで浮いた存在になりながらも折り紙に没頭しており、悠馬はうらやましさすら感じる。
終盤、悠馬が「好きなことにまっすぐで、何が悪いんだよ!」と叫ぶ場面がある。この言葉こそ、著者が作品を通じて訴えたかったテーマではないか。
著者は湯沢市在住。本書がデビュー作で第62回講談社児童文学新人賞を受賞した。
(柏)
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講談社03(5395)3535=1540円。