元気がでてくる奇跡のお菓子――『小公女』セーラのぶどうパンを作ってみた!

谷瑞恵『小公女たちのしあわせレシピ』刊行記念特集

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illustration 中原 薫
illustration 中原 薫

 なつかしい物語に登場する「あこがれのお菓子」。そのレシピが教えてくれるのは、未来へ踏み出すための魔法―。

『伯爵と妖精』『思い出のとき修理します』で読者を魅了した谷瑞恵さんが『小公女たちのしあわせレシピ』を刊行しました。

 不思議な老女が残した英国児童文学の古本が、傷を抱えた人たちを優しくつないでいく―。あたたかな感動に包まれる6つの物語の中で重要な役割を果たすのが、名作に登場するお菓子のレシピ。

『小公女』の主人公セーラが大好きだった「ぶどうパン」、『不思議の国のアリス』に登場する女王様のタルト、ドリトル先生が餞別にもらった「アブラミのお菓子」はどんなお菓子だったのか? 英国料理研究家・砂古玉緒さんに、物語に登場するレシピを再現してもらいました。

奇跡のぶどうパン

チェルシーバンズ(撮影・砂古珠緒さん)
チェルシーバンズ(撮影・砂古珠緒さん)

 谷瑞恵さんの新刊『小公女たちのしあわせレシピ』の主人公は、菓子パンメーカーで働く野原のはらつぐみ。
 就職活動に苦戦したつぐみは、やりたかった仕事とは関係のない仕事をしていて、結婚もまったく機会がないまま。
 さらに、ルームシェアをしていた親友が結婚が決まり、引っ越しを余儀なくされて一時的に実家に身を寄せます。
「かつては、人並に生きていれば人並のものは得られると、よほど高望みをしなければ努力だって報われると思っていたけれど、気が付けば、ごくありふれた希望さえ手に入らなくなっている。そもそも、人並みの幸せなんてものがあり得なかったのだ」
 そんな彼女が実家の本棚で見つけたのは、お菓子レシピが挟まった『小公女』の古書。
 つぐみは『小公女』の主人公セーラが、つらい境遇の中で、自分と同じく空腹の少女に大好物のぶどうパンをあげる場面を思い出しながら、かつて一緒にイギリスを旅行した、マリッジブルー気味の親友とレシピを再現してみることに…。

※※※

『小公女たちのしあわせレシピ』におさめられた6つの物語には、それぞれ、イギリスの名作児童文学に登場するお菓子がレシピ付きで登場します。
 レシピを監修したのは、英国料理研究家の砂古玉緒さん。計10年間の英国生活で伝統的な英国菓子に魅入られ、英国菓子教室「The British Pudding」を主宰。ドラマや料理番組の監修も務めるほか、多数のレシピ本を刊行されています。
 砂古さん曰く「素朴だけど王道」な英国伝統菓子だという、ぶどうパン(チェルシーバンズ)を、私たちの身近な材料で作ってみると―。

【チェルシーバンズ】
≪材料≫
A ドライイースト…大さじ1
 グラニュー糖…5g
 牛乳(人肌に温めておく)…55ml
B 強力粉…175g
 塩…小さじ1/2
 グラニュー糖…25g
卵…1個
バター…25g
フィリング
C カランツ…50g(レーズンでもOK)
 三温糖…20g
 シナモン…小さじ1/2
バター…20g(湯せんで溶かしておく)
打ち粉…適量

≪作り方≫
 1. Aを合わせて10分ほど置いておく。
 2. Bを 合わせてボウルにふるい、溶いた卵を加え、さらに1を加えて木べらで混ぜる。
 3. バターを加え混ぜひとまとまりになったら、台に打ち粉を打ちながらこね上げる。
 4. ボウルに記事を入れラップして、30~40℃の場所へ30分置いておく。
 5. フィリングのCをボウルに合わせて混ぜる。
 6. 打ち粉をした台に4の生地を25×25cmにのばし、溶かしたバターをぬり、5のフィリングをちらす。
 7. 手前から巻いていき、巻き終わりを軽くつまんで下にする。7つにカットして耐熱容器に並べる。
 8. 180℃のオーブンで10~15分焼成する。

カランツはレーズンでも代用可能(撮影・砂古珠緒さん)
カランツはレーズンでも代用可能(撮影・砂古珠緒さん)

 ぶどうパンのお味は、砂古さんによると「くるくるの生地の間からカランツがのぞくバンズは、かみしめるほどにシナモンの香りが広がります。紅茶があるとおいしいバンズ!」とのこと。
 さて、小説の中では、焼きたてのぶどうパンを食べて「甘すぎ」と文句を言いながら笑いあう二人の間に、昔と同じく楽しいひとときが訪れます。
「日常に、奇跡はたくさん紛れているけど、それに気づくことこそが、本当の奇跡なんだ」―。
 名作児童文学に登場するお菓子のレシピが、一歩を踏み出す元気を与えてくれる物語です。

※※※

レシピ監修・砂古玉緒(さこ・たまお)
英国菓子研究家、英国菓子教室「The British Pudding」主宰。英国菓子の製作・指導、英国菓子にまつわる歴史や由来を研究。NHKの連続テレビ小説「マッサン」や、「グレーテルのかまど」での料理・菓子の製作監修、講演会など多方面で活躍中。主な著書に、『お茶の時間のイギリス菓子』『英国の郷土菓子』『食べきりサイズの英国菓子と幸せスコーン』など。

小公女たちのしあわせレシピ

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